2024.06.26

「専門士を生む専門課程」大学にはできない職業教育

「専門士を生む専門課程」大学にはできない職業教育
CareerMapLaboヨシモト博士による「職業教育アカデミー」開講!
職業教育の第一人者、吉本圭一先生の膨大な知識と研究の中から、進路指導・キャリア教育を担う皆さんにぜひ知っていただきたいことをピックアップして講義していきます!

専修学校と大学の「質の保証」をめぐる背景

 高校生が進学先を「大学か専門学校か」と考える際に、「そこで何ができるか」を考えます。学校は「何を提供できるのか」が問われます。学生に提供できる『何か』について、エビデンスをもとに明らかにするのが「教育の質の保証」です。これまで専門学校の「質の保証」についていろいろ指摘されてきました。そこに、大学と専修学校、各々の成り立ちや歴史の違いがあることを、若い教職員の方々はご存知でしょうか?
 大学は、いわゆる「象牙の塔」という大学紛争等の批判を経て、設置基準・設置認可審査・認証評価の3つの要素からなる、公的な質保証システムが整備されてきました。一方、専門学校は、学校評価なども小学校の規定を準用すると学校教育法で定められているにすぎず、長らく「質保証が制度上担保されていない」と言われることになっていました。
 しかし2011年に、中教審の答申によりキャリア教育と職業教育が明示されたことで、大きく風向きが変わりました。2013年には「専修学校における学校評価ガイドライン」が策定・公表され、同年「職業実践専門課程」の文科省大臣認定制度がスタート。専門学校は、より実践に力を入れた職業教育へと舵を切ることになり、実践的な「質の保証」が求められるという輪郭がはっきりとしたのです。

職業実践専門課程が秀逸な「専門士」を生む未来

 2013年にスタートした職業実践専門課程は、現在のところ認定校数・学科数は全体の4割弱です。コロナ禍などの社会情勢を乗り越え、数年後にはぜひ認定課程数が7割程度までに増えてほしいと願っています。この職業実践専門課程は、教育の目標設定や方法論、評価などの観点での企業との連携が基本要件となっており、一番厳しい目で学校を見る「外部からの評価」のもとで運用されます。この企業・職業等との連携こそ、職業教育の「質の保証」の要であり、職業実践専門課程は大切な制度となっているのです。
 そして今、職業実践専門課程の制度充実として、称号としての「専門士」との完全な連携ができました。修業年限2年以上の専門課程のほとんどは「専門士」授与の学科ですが、2022年3月の告知では「職業実践専門課程」の認定要件に、この「専門士」授与可能な課程であることが加えられました。今後、専門分野ごとの教育目標設定やカリキュラム・モデル、職業実務に卓越する教員の体制の検討など、職業実践専門課程も大きく改革の時を迎えようとしています。
 これからの高校生たちが進学先を選ぶ時に、専門学校は「実践的で、外部評価に基づいた職業教育が提供される学校」、「国家資格のない分野でも秀逸な専門士になれる学校」という世界の常識が拡がる未来を実現したいものです。

編集/百合草史恵 イラスト/安田友里加
本文はCareerMapLabo Vol.2(2023.1月発行)内の掲載記事です。記載されている内容は掲載当時のものです。

吉本 圭一

吉本 圭一Keichi Yoshimoto

日本インターンシップ学会会長
滋慶医療科学大学大学院教授
九州大学 名誉教授

1978年東京大学教育学部卒業。教育社会学を専門とし、特に大学・短大・専門学校等の第三段階教育を中心に、実証的政策科学的な研究教育を行なう。インターンシップや専門的な実習など学術と職業の往還する職業統合的学習に注目し、学修成果の構築、コンピテンシーとキャリアの形成をめぐる今日的特質、教育と職業・社会との移行・接続について国際比較等を通して解明。第三段階教育における学術的アプローチとキャリア教育・職業教育アプローチとの組合せ、目的・方法・ガバナンスにかかる複眼的モデルを探究する。

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