2024.09.04

「教員の質の向上」〜求められる継続的な能力開発〜

「教員の質の向上」〜求められる継続的な能力開発〜
Career Map Laboヨシモト博士による「職業教育アカデミー」開講!
職業教育の第一人者、吉本圭一先生の膨大な知識と研究の中から、未来の職業教育を担う皆さんにぜひ知っていただきたいことをピックアップして講義していきます!

職業教育における教員は「教えるプロ」である前に「職業のプロ」である

 新年度を迎え、たくさんの新入生たちが入学して来たことと思います。彼らにとっては、きっとすべてが目新しいことばかりで、これまでとは異なる単位制度や「目的に合わせて自分で選択すること」に驚くかもしれません。そして授業が始まると、学校や教員との関係そのものが、これまで見出しの学生生活とは、少し違うことにも気づいてゆくことでしょう。
 高校までの教員は、それぞれの校種の教員資格を持った「教えるプロ」でした。しかし、専門学校の教員たちは違います。職業教育における教員資格は「教えるプロであること」ではなく、「その職業のプロであること」だからです。また専門学校においては、専任教員と非常勤教員の割合が1:2以上という現実もあり、常勤の「教えるプロ」の数が少ないとも言えます。この春も、多くの新任教員が教壇に立たれたことかと思いますが、学生から見たら常勤・非常勤の差はなく、等しく「先生」。学校としては、「職業のプロ」のみなさんに、一日も早く「教育のプロ」になってもらう必要があります。
 また「教員の質の向上」については、もうひとつ大きな流れがあります。それは、「職業実践専門課程」においてです。この文科省大臣認定の専門課程は、教育の質の保証という面からも、専門学校にとって要となる大切な制度ですが、認定基準には【教員の資質向上】の項目があり、企業等と連携した教員のスキルアップを促しています。

職業教育の未来に欠かせない、教員への継続的な能力開発

 【教員の資質向上】が、職業実践専門課程の認定要件であることはもちろんですが、そもそも職業教育への社会的要請は刻々と変化しており、提供している教育内容も、常にアップデートが必要です。そのために、教員たちはそれぞれ、所属校や法人、関係団体、専門分野に関わる業界・専門職団体、大学院などの団体・学術協会が提供する機会を有効活用して、能力開発することが求められています。しかし、2011年に実施した調査によると、教員の多くが自らの能力開発に高い関心を持っている一方で、「所属の団体や協会がない」、または「各種学校等の講習会に参加したことがない」という教員が全体の3割に達し、教員の継続的な能力開発に対して、法人や学校の支援がまだ不十分であることも明らかになりました。
 教員としての新規採用時にも、大きな法人グループをなす専門学校等では、自前の研修制度を持つところもありますが、小さな学校での個別の研修実施は難しいのが現実です。その場合、「職業教育・キャリア教育財団」が行う新任教員研修を利用するといった方法もあります。例えば、東京都専修学校各種学校協会では、2021年度にはオンライン開催をスタート。オンラインやオンデマンドなど、どこからでも受けやすい形を活用し、内容的にも普及度についても、さらに充実させていきたいと考えています。職業教育の未来を描くために、新しい教員の能力開発の模索は欠かせません。

編集/百合草史恵 イラスト/安田友里加
本文はCareerMapLabo Vol.3(2023.4月発行)内の掲載記事です。記載されている内容は掲載当時のものです。

吉本 圭一

吉本 圭一Keichi Yoshimoto

日本インターンシップ学会会長
滋慶医療科学大学大学院教授
九州大学 名誉教授

1978年東京大学教育学部卒業。教育社会学を専門とし、特に大学・短大・専門学校等の第三段階教育を中心に、実証的政策科学的な研究教育を行なう。インターンシップや専門的な実習など学術と職業の往還する職業統合的学習に注目し、学修成果の構築、コンピテンシーとキャリアの形成をめぐる今日的特質、教育と職業・社会との移行・接続について国際比較等を通して解明。第三段階教育における学術的アプローチとキャリア教育・職業教育アプローチとの組合せ、目的・方法・ガバナンスにかかる複眼的モデルを探究する。

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