2024.09.20

「職業教育と教養教育」〜職業を極めた先の教養〜

「職業教育と教養教育」〜職業を極めた先の教養〜
Career Map Labo ヨシモト博士による「職業教育アカデミー」開講!
職業教育の第一人者、吉本圭一先生の膨大な知識と研究の中から、未来の職業教育を担う皆さんにぜひ知っていただきたいことをピックアップして講義していきます!

「大学は幅広い教養教育を行う」「専門学校は職業教育だけ」というイメージ

 専門学校と大学の教育の違いは? と聞かれた時に、高校の先生方の多くは「修学期間の違い(専門学校の多くは2年、大学は4年)」や「教育の幅の広さ」を挙げる方が多いのではないでしょうか。期間の違いはその通りですが、ここで言われる「教育の幅の広さ」というのは、総合大学における学部の種類や幅という意味ではなく、どちらかというと、大学で行われる「教養教育」をイメージしているように思われます。専門学校で行われるのは「専門・職業教育」のみであり、大学では専門教育に加えて「教養教育」が行われていると認識している方が多いのではないでしょうか。
 その理由として、大学は、教育基本法において「学術の中心として、高い教養と専門的能力を培うとともに、深く真理を探究して新たな知見を創造し、これらの成果を広く社会に提供することにより、社会の発展に寄与するものとする」と定められている一方で、専修学校は、学校教育法に「職業若しくは実際生活に必要な能力を育成し、又は教養の向上を図ることを目的として」と定められていることに起因しているようです。
 つまり大学は「高い教養を身に着けるために、幅広い教養教育を行う場所である」が、専門学校では「専門的な技術習得が主目的なので、教養教育は行われない、身につかない」と思われてしまっている印象を受けます。

職業は、極めれば高い教養に行き着く。そして人を自由にする。

 確かに大学では、より多くの時間が教養教育に費やされます。しかし実際仕事に就いた時に、その差は、果たしてどれだけあるのでしょうか。
 例えば、建築・土木の専門学校で学び、資格を得た技術者が「川に橋を架ける」仕事をする場合。構造物の設計に必要な計算・知識・技術はもちろんのこと、材料の特性や強度などの知識が必要です。川の幅や水の流れの量、速さについての知識も必要でしょう。また、海に近いのか、山にあるのか、町なかにあるのか。その橋を利用する人の暮らしや生活圏について。あるいは、その橋ができることで起こる自然や生態系の変化や、地域特有の気候についてなどなど、知っておくべき文脈はたくさんあります。これらは、いわゆる「高い教養」でありながら、決して「教養教育」で教え切れるものでもありません。つまり、ひとつの技術(職業)は、深めていけば「広く高い教養」になるのです。
 2040年には多くの職業がなくなるというのに、「ひとつの職業」を学ぶことに意味があるのか? と言う人がいますが、職業は人を自由にするものであり、世界のどこへでも持っていくことができる武器です。その職業で学んだ文脈の知は、次の職業を学ぶ時に力を発揮します。職業教育が「現場」を学び、さらに実際に「現場」で学ぶことによって、広く高い教養に裏づけされた、転用可能な専門能力を身につけることができるのです。

編集/百合草史恵 イラスト/安田友里加
本文はCareerMapLabo Vol.5(2024.1月発行)内の掲載記事です。記載されている内容は掲載当時のものです。

吉本 圭一

吉本 圭一Keichi Yoshimoto

日本インターンシップ学会会長
滋慶医療科学大学大学院教授
九州大学 名誉教授

1978年東京大学教育学部卒業。教育社会学を専門とし、特に大学・短大・専門学校等の第三段階教育を中心に、実証的政策科学的な研究教育を行なう。インターンシップや専門的な実習など学術と職業の往還する職業統合的学習に注目し、学修成果の構築、コンピテンシーとキャリアの形成をめぐる今日的特質、教育と職業・社会との移行・接続について国際比較等を通して解明。第三段階教育における学術的アプローチとキャリア教育・職業教育アプローチとの組合せ、目的・方法・ガバナンスにかかる複眼的モデルを探究する。

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