2025.12.25

2025年11月28日 第6回職業教育シンポジウムレポート

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2025年11月28日 第6回職業教育シンポジウムレポート
CAREER MAP Labo主催 第6回職業教育シンポジウムレポート
「夢中が未来をつくる ― 好きを信じる教育・支える大人の力」

2025年11月28日、第6回「職業教育シンポジウム」が開催されました。会場とオンラインを合わせ約100名ものご参加をいただき、「職業教育のこれから」と「子どもの好き・夢中をどう支えるか」について多くの実践例を知り、今後を考える大変有意義な場となりました。

【プログラム】

[第一部]
1. 開会挨拶と講和
文部科学省 生涯学習推進課 課長 中安 史明 氏

2. 基調講演
学校法人金蘭会学園 副理事長/前 広島県教育長 平川 理恵 氏

[第二部]
パネルディスカッション

テーマ:「夢中が未来をつくる — 好きを信じる教育・支える大人の力」

■ご登壇者
平川 理恵 氏(学校法人金蘭会学園 副理事長/前 広島県教育長)     
立崎 乃衣 氏(株式会社ADvance Lab 代表取締役兼CEO)※米国よりオンライン登壇      
中安 史明 氏(文部科学省 生涯学習推進課 課長)
モデレーター:板倉 真紀(CAREERMAP Labo 編集長)

■第一部 1. 専修学校政策の最前線から見える“職業教育の現在地”

 冒頭、文部科学省 生涯学習推進課 課長・中安史明氏から、開会のご挨拶と共に「専門学校のこれから -学校教育法の改正等について」と題した講和が行われました。
 中安氏はまず、専門学校が大学・短期大学と並ぶ高等教育機関として、約2,800校・約60万人が学び、毎年20万人弱の就労者を社会に送り出していること、工業・医療・福祉・商業実務・文化教養など8分野で、30以上の国家資格や多様な民間資格と結びついた実践的な職業教育が行われている現状を共有しました。
 続いて、高等教育への進学率推移や縦断調査の結果に触れ、「専門学校で学んだことが仕事に生きている」と感じる卒業生が非常に多いという結果を紹介。背景には、少人数での手厚い指導や、企業と連携した職業実践専門課程など、「仕事と直結した学びの設計」があると語りました。
 最後に取り上げられたのが、2024年の学校教育法改正です。単位制の導入、専門士・高度専門士の位置づけ見直し、専攻科の創設、第三者評価の導入などにより、専門学校は大学と並ぶ「高等教育としての見える化」が進みつつあることが伝えられました。
 「社会からの専門人材への期待は年々高まっている。専門学校は、若者の『好き』『得意』を、社会に必要とされる専門性へと接続する重要な基盤だ」と中安氏。
 制度整備の裏側には、「夢中で学んだことが、そのまま社会で生きる」という職業教育への強い期待があることが伝わってきました。

■第一部 2. AI時代・100年人生における「学校はここまで変えられる!」

 続く基調講演では、『学校はここまで変えられる!』の著者であり、学校法人金蘭会学園 副理事長/前 広島県教育長の平川理恵氏が登壇。「これからの時代の学校のあり方」を、豊富な実践事例とともに語っていただきました。

 冒頭で示されたのは、アメリカの「就職できなかった専攻ランキング」。文化人類学のような文系だけでなく、コンピューターエンジニアリングやコンピューターサイエンスといった、これまで、もてはやされてきた専攻も「就職できなかった」上位に入っているというデータが紹介され、会場にはどよめきが走りました。
 「簡単なプログラミングやデザインは、すでにAIが代替し始めている。一方で、ナーシングや動物に関わる仕事など、人の体や心、癒しに関わる領域は依然として高いニーズがある」と平川氏。では、AIと人間の違いは何か。
 平川氏は「人間には肉体があり、心や『気』がある」と指摘します。2007年生まれの子どもたちが「107歳まで生きる時代」に入ろうとしている驚きの事実を示しながら、「やる気・元気・その気――この『気』をどう育むかが、これからの教育の核心だ」と強調しました。

 そのうえで示されたのが、「教育改革のツボはカリキュラム・カルチャー・システム」という視点。氏が実践してきた改革について3つの観点から話が続きます。

カリキュラムについて

確立した一斉授業から、問いを起点とした探究型・選択型の学びへ。
広島県立のIB教育校「叡智学園」や、複数学年が混在するイエナプラン校、自ら学ぶ内容・ペース・方法を選ぶ「自由進度学習」など、オルタナティブな学びの場づくりの実践が紹介されました。「学ぶ内容・ペース・学び方の3つを選び取る」教室では、子どもたちから「自分で考えられるのが楽しい」という声が自然に出てくるといいます。

カルチャーについて

教室を「教える場」から「共に学び合うリビングルーム」へ。
年齢の異なる子ども同士が教え合い、先生は一斉授業ではなく、つまずきポイントで短くインストラクションを行うスタイルです。学校では、「自分には良いところがある」「先生は自分の良いところを認めてくれる」と答えた児童が100%に達した事例も示されました。

システムについて

仕組みの側から学びを支える取り組み。
不登校支援の「スクールS」による“県立フリースクール”の設置、商業高校でのPBL(課題解決型学習)、自己表現を重視した入試改革など、仕組みの側から学びを支える取り組みも語られました。県教育委員会としても、「攻め(改革)と守り(制度運用)を分ける」「フレキシブルな職員体制をつくる」といった組織マネジメントの工夫が紹介され、会場参加者たちが大きくうなずく場面が続きました。

お話に共通していたのは、「子どもは変わるし、学びはデザインし直せる」という確信です。
「これまでの日本の教育がすべて間違っていたわけではない。ただし、子どもたちにとっての“チョイス”が決定的に足りなかった。『みんなと同じ』以外のルートを用意できるかどうかが、これからの学校の勝負どころだと思う」と平川氏。
 AI時代・100年人生を見据えた学校づくりの具体像が、臨場感を持って共有されました。

■第二部 パネルディスカッション
「夢中が未来をつくる ~好きを信じる教育・支える大人の力~」

 第二部では、平川氏・中安氏に、株式会社ADvance Lab 代表取締役兼CEOの立崎乃衣氏(米国よりオンライン登壇)を加え、CAREERMAP Labo編集長・板倉真紀がモデレーターとなってディスカッションが行われました。
 テーマは、「子どもの『好き』『夢中』を社会とどうつなげていくか」「そのために大人は何ができるか」です。

学校・民間・家庭という三者協力による教育への期待
 冒頭、第一部の平川氏の講演に関心しきりのお二人から、平川氏の「まわりを動かす力」などに質問が飛んだ。立崎氏からは「私は、学校・民間・家庭という三者が協力しながら教育をつくっていくことが重要だと考えています。そのうえで、学校の学び方に違和感を抱いていたり、今の学びでは物足りなさを感じている一定数の子どもたちに対して、学校や地域、大人はどのような関わりができるのか。ぜひ、その点についてお伺いしていいですか?」との問いが投げられた。

 中安氏は、行政の立場から “公教育が抱える現実” を率直に共有。
「いま最も大きな課題は、不登校が全国的に急増していること。事情が非常に個別的で、国としてどう現場を支援できるか、答えが簡単ではありません。また、授業が遅くて物足りない子どもたちへの対応も同様に重要で、多様なニーズに公教育がどう応えるかが省内で大きな議題です」

 平川氏は、教育に「正解・不正解はない」と前置きしたうえで、教育観の前提として 構成主義(学びは自分で発見する) と 行動主義(飴と鞭で動機づけする) の違いを説明。本来は、両方をうまく織り交ぜる必要があるが、教育者が“自分が受けてきた教育”を基準に「良し悪しを語ってしまう」ことが多いため、このふたつは非常に相性が悪く、議論がかみ合いにくいという。
 「教育を語るときは、本来どの立場の考え方に立っているかを共有しないと議論が前に進まない。なので、その前提を乗り越えて、家庭・学校・地域が協力しながら子どもの学びを支えていく必要があると思います」と応じた。

“「好き」に出会う環境と、支えてくれる大人の存在”
 ここで平川氏から「逆にお聞きしたい。まさに『好き』を今につなげて成功している立崎さんのような方は、どんな風にしたらできあがるの!?」と問いが出されました。好きが現在につながった原点について、立崎氏の答えは「環境や大人の存在はとても大きい」というものでした。
 9歳でロボット製作を始め、高校3年生でForbes JAPAN「30 UNDER 30」に最年少で選出、現在はアメリカで学びながら、研究とビジネスを両立している氏は、自身の原点をこう語ります。
 「幼い頃から、両親が本や工作キットなど『面白そう』をたくさん用意してくれました。私が興味を持てば、一緒に海辺で砂を掘って「どこまで掘ったら海になるか(水が出るか)」の実験をしたり、プログラミングを一緒に学んでくれたり。学校の先生たちも、ロボットの活動を面白がって応援してくれた。自分の得意なことと、『すごいね』と認めてくれる大人の存在が重なって、ロボットが“本気の好き”になっていきました」
 しかし、留学準備を進めていた高校3年生の時に、ふと「このままでいいのか」といった迷いが生じて、大学進学を1年遅らせる「ギャップイヤー」をとったこと、その間のリバネス社での実践、現在運営する次世代研究所「ADvance Lab」での仲間との協働など、社会とのリアルな接点も「好き」を仕事へつなぐ大きなきっかけになったといいます。

「好き」を否定しない社会をどうつくるか

 では、「好きを信じる教育のために、大人はどうあればよいか?どう支えるべきか」。
平川氏は、「大人も子どもも学び続けること」「子どものやっていることをおもしろがること」の重要性を、あらためて強調。
 「子どもも地球市民の一人。上下関係ではなく、一緒に学ぶ存在」と語りつつ、「『そんなことしても食べていけない』と水を差すのではなく、おもしろいとまず受けとめること。そのうえで、必要なら“論語とそろばん”的に、ソロバン(仕事やお金)のリアリティも一緒に考えていくのが大人の役割だと思う」と話し、AI時代・100年人生のなかで、「やる気・元気・その気という“気”をどう守るか」が、学校と大人に共通するテーマだと改めて投げかけました。

 中安氏は、「今は、若い人も本当に好きじゃないと“持たない時代”』と感じている」と率直に語ります。そのうえで、「好きなことと、できることと、お金を稼げることが全部重なればもちろん理想だけれど、現実には少しずつズレもある。だからこそ公教育は“ミニマムを支える基盤”として、どの子にも『できる』を増やす役割を果たしたい」と述べました。
また進路や職業選択の場面では、一個人として「今の常識から見るとずれていると思う選択であっても、子どもがやりたいと言うなら、それを信じて見守ってあげられる大人でありたい」と締めくくりました。

 立崎氏は、自身の経験を振り返りながら、「子どもの『好き』って言っているものを、面白がって応援してくれる大人たちが周りにあふれていたことが、自分をここまで連れてきてくれた」と語ります。中高時代、先生に毎日日記を提出し、「人生の先輩から毎日コメントをもらっている感覚」があったという体験にも触れ、「生きた哲学みたいな言葉をさらっと投げてくれる大人たちに出会えたおかげで、自分は何を大事にしたいのか考え続けることができた。大人・子どもにかかわらず、お互いの『好き』や生き方で刺激を与え合える社会になっていくといい」と、これからの「好き」を支える環境への期待を語りました。

■おわりに モデレーター CAREER MAP Labo板倉編集長より

 今回のディスカッションでは、ご多忙のなかご登壇いただいた3名の皆さまが、それぞれの立場から率直にお話しくださり、非常に学びの深い時間となりました。立場は異なっても、「子どもの『好き』を否定せず、どう伸ばすか」という共通の思いが交差し、私たち職業教育に携わる者自身の在り方を深く問い直していきたいと改めて考えさせていただきました。心より感謝申し上げます。社会環境が大きく変化し、AIが多くの仕事を代替していく時代。平川氏が「2007年生まれの平均寿命は107歳らしいですよ。平均ですよ!」と資料を示した途端、会場では大人たちが思わず息をのみました。100年を超える人生を、誰もが自分なりのペースで歩む時代が始まっています。そして、私たちが向き合っている子どもや学生たちに、「彼・彼女たちが、100歳まで幸せに生きる」ために、今、自分たちに何ができるのかという視点を持たなくてはならないと気が付いた瞬間でもありました。
 今回のシンポジウムを通じて浮かび上がったのは、「夢中が未来をつくる」という揺るぎない事実です。子ども一人ひとりの「好き」「得意」「違和感」を出発点に、そのエネルギーを信じて伴走する大人と、学びと仕事をつなぐ職業教育の場―その両輪がそろったとき、はじめて「好きを信じる教育」が社会の当たり前になっていきます。また「好き」を見つけられずに迷っている人たちを、リスキリング・学び直しとしてサポートできるのもまた、職業教育の面白さであろうと再発見できる機会ともなりました。。
 CAREERMAP Laboは、専修学校をはじめとする職業教育機関とともに、「夢中を否定しない」「好きを社会につなぐ」という学びのエコシステムづくりに、これからも取り組んでいきます。

板倉 真紀

板倉 真紀Maki Itakura

株式会社グッドニュース
取締役 キャリアマップ編集長

株式会社リクルート入社、HR領域において、企業の採用課題を解決することから、採用のその先にある課題(インナーコミュニケーション領域)までを手掛ける。
業務としては、求人広告・企画商品の制作分野、求人メディアの編集企画が中心キャリア。
その後、事業会社の人事として、外資系ベンチャー立ち上げ・機械メーカーでの機電系人材・経営幹部人材の採用人事、製造業での総務人事部長。その後、キャリアマップ編集長へ。

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