2024.12.25

2024年11月28日 第5回職業教育シンポジウムレポート

2024年11月28日 第5回職業教育シンポジウムレポート
Careermap主催 第5回職業教育シンポジウムレポート
~自分で選ぶ 自分で決める 自分で成長する~
社会と教育をつなげる実践型教育に学ぶ

 2024年11月28日、第5回職業教育シンポジウムが開催されました。これまではオンライン開催のみでしたが、今回は初めて会場へのリアル参加も可能となり、50名のご参加をいただきました。また満席の会場から、全国へオンライン配信。シンポジウム後には、登壇者との懇親会も開催し、職業教育について情報・意見の交換が行われました。

【プログラム内容】


第一部:実践授業の実例紹介(14:15〜15:00)

・CASE 1/四條畷学園
「学校をひらく ~高-専/高-大/高-社・連携を実践してきた現場のリアル」

・CASE 2/島根県立津和野高等学校
「まち全体が学びの場として、高校生のキャリア教育を全面的にバックアップ」

第二部:パネルディスカッション「社会に開かれた教育とは」(15:05〜15:55)

【ご登壇者】

■特別ゲスト
全国専修学校各種学校総連合会 会長 多忠貴 氏
文部科学省 専修学校教育振興室長 米原泰裕 氏

■第一部実例ケース講演/第二部パネラー
四條畷学園 全学広報 薛翔文 氏
島根県立津和野高等学校 進路指導主事 堀尾真吾 氏

■開会メッセージ(特別ゲスト)
 開会の挨拶として、まず全国専修学校各種学校総連合会会長の多忠貴氏から、実社会と専門学校を結ぶ実践教育の現状と課題、今後についてのメッセージをいただきました。
冒頭、今年の通常国会において専門学校の制度改正案が全会一致で可決され、令和8年4月1日から学校教育法の一部改正が施行されることを取り上げ、「職業教育」に期待が高まっていること、そして制度として期待に応えるのが、まさに今日のテーマである「社会と教育をつなげる実践型教育」でもある「職業実践専門課程」であり、今後の同課程の発展に期待いただきたいと述べられました。また、大きな社会課題である今後の人材不足に対して、「短期間で学び直せるリスキリング」と「優秀な海外人材への実践的教育」という2つの観点から、専門学校は大きな役割を担っていると展望を示唆していただきました。

 続いて、文部科学省 専修学校教育振興室長 米原泰裕 氏から、専修学校の現状と課題についてメッセージをいただきました。
米原氏からはまず「社会のニーズに応じた教育をしていこうという中で、専門学校の柔軟性は群を抜いている」と所感をいただきました。文科省による「21世紀出生児縦断調査(H 13年出世児)」においても、専修学校は「学校生活の満足度」が非常に高いことに触れ「時代のニーズにあった教育を丁寧に行っている証ではないか」と述べておられました。
また「18歳人口の減少に対して現在、首都圏・都市部・地方それぞれに必要な高等教育機関を提供していくという観点での「規模の議論」をしている。これだけ社会が複雑化、多様化するなかで、子どもたちが自分の興味関心や、将来どういう場面で活躍したいといった、自分の進路をきちんと選択できるようになることが大切」と述べられ、そのために小中高から専修学校・大学まで含めて連携し、それぞれに必要なタイミングでキャリア教育等を行っていくべきだというメッセージをいただきました。

■実例ケース講演

「社会と教育をつなげる実践型教育」の実例ケースとして、2つの高等学校の取り組みをご紹介させていただきました。
まず1校目は、大阪府にある四條畷学園高等学校。
1学年500名超が在籍する都市部の大規模私立高校。そして2校目は、1学年70名(うち3分の1が県外からの「留学」)の島根県立津和野高等学校。環境的には対照的な2校の取り組みについてお話いただきます。

実例ケース①:四條畷学園高等学校(大阪府大東市)

「学校をひらく ~高-専/高-大/高-社・連携を実践してきた現場のリアル」
・幼稚園、小中高、短大、大学を擁する学校法人
・1学年500名超のマンモス校
・総合キャリアコース、発展キャリアコース、特別シンガクコースの3コース


 四條畷学園の全学広報 薛翔文 氏から、まず学校について、特に総合キャリアコースで行われている、大学や短大、専門学校との連携について共有をしていただきました。
 数年前から、「#青春しようぜ」を合言葉とする同校。「青春」=「挑戦」と捉え、「総合探求の時間」を、大学や専門学校、短大などの進学先となりえる学校に任せる形で連携。全14時間の授業をそれぞれの学校に託してカリキュラムを組んでもらい、それぞれの学校の得意分野を活かした体験型の学習を行っています。体験することで、社会に出てから必要となる「自らの価値観」を持つきっかけとなり、また体験する中で「小さな選択」を重ねていくことで、自己肯定感を醸成することが狙い。こうした体験型授業を行った結果、自分の将来について積極的に考える生徒が増え、大学への進学率のアップと共に、専門学校への進学率も2倍になったといいます。
 体験型学習の例としては、▷保育士講座 ▷ダンス ▷トータルビューティ ▷世界の7言語ツアー ▷理科系実験教室 ▷eーsports体験 ▷マンガ・イラスト ▷ドッグトレーナー体験 ▷服飾デザイナー ▷トータルファッションなど。また、校外へもスピンオフ企画として飛び出し、▷パスタ店のメニュー開発 ▷書店でブックカフェのDIYなどを行っています。学校外のさまざまな「社会」と連携をする現場として、高校教諭の方々もまだ「共創」に不慣れであるというリアルな声も共有いただきました。

実例ケース②島根県立津和野高等学校(島根県津和野町)

「まち全体が学びの場として、高校生のキャリア教育を全面的にバックアップ」
・在校生の3分の1が「しまね留学」を利用して、他県から入学し寮で生活
・進路指導は「個別最適化」がモットー。進路は国立大から就職まで多様
・自然科学コース、探求コース、総合コースの3コース

窓の外を見ている人たち

中程度の精度で自動的に生成された説明


 2校目は、島根県立津和野高等学校 進路指導主事 堀尾真吾 氏から、学校と町が連携して行っている教育モデル「T-PLAN」についてお話いただきました。
 津和野高校は、島根県各地での廃校の危機に端を発した「離島・中山間地高校魅力化・活性化事業」により、「高校魅力化コーディネーター」という教員ではない第三者が在籍。職員室に席を設け、さまざまな形で町と高校をつなぐ役目を果たしています。例えば、総合探求の時間は3年間で「さがす」→「やってみる」→「つなぐ」という過程を経るために、1年次はさまざまな「講座」が設けられ、生徒たちが自分の興味あるテーマ(プロジェクト)を探すために参加します。「コーヒーの淹れ方」から「アイドル研究」「農業」など数十にも及ぶその講座は、ほぼ全て町内の大人たちが開催。また、1年生全員と同数の町の人が体育館に集まって会話する「トークフォークダンス」、町で生徒全員を引き受けてくれるインターンシップや、地域活動を行うグローカルラボ部など、あらゆる場面で町内の大人たちがさまざまな形で協力してくれています。押尾氏は、「変化の大きな時代に生きる子どもたちに、旧来の限られた大人(教員)の価値観だけでは、もはやすべてを提供しきれない。いろんな価値観を持つ大人(町の人々)たちに会わせることで提供できるものが広がる。我々教員は、転勤でいなくなります。でも町の人たちとつながることで、私たちがいなくなっても『津和野高校の教育はこうだ』というものは残る」と話してくださいました。

第二部:パネルディスカッション「社会に開かれた教育とは」

 第一部でお話いただいた文部科学省の米原氏、四條畷学園の薛氏、島根県立津和野高等学校に、モデレーターのCAREERMAP Labo編集長 板倉真紀を加え、教育現場における実践的なキャリア教育の役割や、社会に開かれた教育の未来についてパネルディスカッションを実施。対照的な規模の2つの学校の事例から、「社会に開かれた教育」について、ざっくばらんに本音で語っていただきました。

冒頭から、「聞きたいことがたくさんあるんです」とおっしゃる米原氏。特に「新しい取り組み」を行う2校に対して、新しいことを行う時に現場で起こり得るハレーションや障壁、コツとなるものについて、米原氏から質問いただく形でディスカッションは進行。「取り組みの中で生徒の自主性に任せると、生徒があらぬ方向に行ってしまわないか」や「地域の教育資源の活かし方、選ぶコツ」、「活動を学びにつなげるための工夫」「マンパワーの配分」「教員の中でのハレーションはないのか」「保護者の理解は得られるのか」などについて語りました。

スーツを着た男性

自動的に生成された説明

両氏の率直な回答を伺っていると、都会と地方、大規模と小人数という、両極端な2校が、それぞれ「社会に開かれた教育」を行える理由、そこに至るストーリーが見えてきました。ここではディスカッションの内容を抜粋してご紹介します。

新しい取り組みの成功に欠かせない「教員へのコンセプトの浸透」

スーツを着た男性

自動的に生成された説明

まず四條畷学園は、大阪の中心部に近い大規模私立高校。周囲の学校との差別化のために「学校を閉ざすのではなく、社会に開く」がコンセプトとなっています。偏差値教育の中で戦い切れなかった生徒たちに向けて「自分にもできることはある。偏差値だけが価値感ではない」ということを実感してもらい、未来に目を向ける力の養成に軸足を置くという方針です。教員たちみんなで話し合い、みんなで決めたコンセプトだからこそ、教員間でも迷った時にはこのコンセプトに立ち返って考えたり話し合うことができている、と薛氏。

 また、コンセプトの浸透のために調整役を明確にし、教員のなかに担任をもたない専任の役職を置いているそうです。
 一方、地方の小さな学校である津和野高校は、廃校の危機を迎えたことで、「公立高校であっても個性を明確に持たないと、存続はできなくなる」と、はっきりと体感されています。しかし個性という点で、例えばそれを「自然」と置くと、北海道や沖縄が本気を出したら、津和野なんてすぐに負ける、と堀尾氏は言います。そして教員みんなで考えたどり着いがのが、津和野は人が資源という考え方と、「津和野の人たち」と協力し「まち全体が学びの場」という個性でした。だから校長・教頭をはじめ、教員もみんな、コーディネーターと協力して、それを持続可能な形で実現しようとしているのだとおっしゃっていました。

地域の教育資源をどう取り込み、どう続けていくのか。

薛氏は、地域に学校を開くと決めた当初、専門学校や短大・大学に新しい取り組みを説明し、協力を求めて回ったそうです。しかし一度やってみると、他からも引き合いがあるような状況に。大都市は選択肢も多い分、選び方には注意もされているようです。学校というところは、一度形ができると継続しがちであるため、本当に生徒にためになっていることや、お互いがWINWINであること、あくまでも生徒に選ぶ権利があることなどの再確認や、安全性の乱歩のため紹介ルートの選定も必要であるとのことでした。

 一方、地方では教育資源には限りがあると言う堀尾氏も、同じくスタート当初は、町のみなさんに頭を下げて協力をお願いして回った、と言います。しかし今では、町中に「津和野高校はこういう学校」というのが浸透しており、向こうから「今年はどうする?」と声をかけてもらえるようになり、また有名シェフを紹介してもらうなど、いつも気にかけてくれる人や、生徒のために骨を折ってくれる人ができたといいます。

「活動あって学びなし」にならないために、生徒たちをどう導いていくのか
 津和野高校では、入学時から同校の「個性」を理解して町外・県外から入学してくる生徒も多いため、それを生かした総合型の入試選択者も多いと堀尾氏。「総合探求の時間」の成果物をことさら求めてはいないが、今後のキャリアのために生徒自らが「言語化しなければ」という意識があり、教員がタイミングを見計らって声をかけサポートすることで担保しているといいます。。
四條畷学園ではスタートから2年たち、まさに「やりっぱなしにしないため」に、アセスメントシート(テスト)を導入して成果の可視化を検討しているところ。人生のちょっと先輩である大学生との接点を設けて、教員との上限関係ではなく、先輩との斜めの関係で、意識醸成を促したりもしているといいます。
 ここで、教員である堀尾氏は「まさに、この評価の部分は非常に難しい」と発言。「総合探求の時間」は授業であるため、実施・運営にはコーディネーターが協力してくれても、評価は教員の仕事となる。専門外といえるこの評価について「おそらく全国の教員のみなさんが悩まれていると思う。私たちももう少しやり方を定めていこうとまさに今話し合っています」と吐露されていました。

「自主的に学び、考える力」を育てるために

 CAREERMAP Labo編集長板倉から、堀尾氏に「自主的に学び育てる力」を育てるためのコツやポイントがあれば知りたい」と質問がありました。

堀尾氏は、「学校の個性として、総合探求に力を入れていることに惹かれて入学してくる生徒がいるので、自主性の土台はある」としつつ、生徒たちが自ら掲げるテーマ・プロジェクトを、なるべくリアルに世の中と結び付けていくことが、次の行動につながっていくのではないかと教えてくれました。同校の場合は、ここでも仲介役・指南役としてコーディネーターの存在は欠かせないといい、ICTも活用して、「こういう活動できるよ」という公募も、即時直接的に、コーディネーターから全員に窓口が開かれているといいます。

「子どもたちのために、大人が汗をかけばいい」
 最後のメッセージとして四條畷学園の薛氏は「子どもたちのために、私たち大人は汗をかけばいいと思うんです。ぜひ一緒に汗をかきましょう」と発言されており、津和野高校の堀氏も「鍋蓋組織の蓋を外してみると、生徒にも教員にも、楽しいことや思いがけない味方が入ってきてくれるかもしれません」と呼び掛けていました。米原氏からも「学校や先生たちが活躍できるようバックアップしていきたい」と心強いメッセージをいただき、閉会となりました。

所感(CAREERMAP Labo編集長 板倉真紀)

 今回、「社会に開く・外とつながる」という決断をされ、積極的に実行してらっしゃる高校2校を紹介させていただきました。環境は違えども、その出発点は「危機感」。日本中で教育への危機感が高まっているなか、いち早く行動に移した先輩としてお話をしてくださったことにまずは感謝いたします。危機感をもとに強い想いを持って、決断し、継続するために努力されているご様子を共有いただきました。
 津和野高校は、島根県独自の「教育魅力化コーディネーター」の存在が大きなカギとなっていますが、県内全ての高校がこのように地域からの厚い協力を得られているわけでもなく、教員とコーディネーターの関係性がこれほどうまくいっている学校ばかりではないと思います。進路指導も「個別最適化」を標榜し、「国公立進学から就職まで、生徒が望む進路について、保護者ともとことん話し合うのが私たちの仕事だ」という堀尾先生の言葉からも、生徒の将来に寄り添うという想いが込められていて、改めて頭の下がる思いで拝聴しました。
 四條畷学園高校は、競争が激化する大都市の学校として新たな戦いを挑むために、学校を閉じるのではなく、徹底的に開くという手法をとられています。これまでの既成概念を一度取り払い、周囲にあまた存在する教育資源からフラットな目線で「本当に生徒に必要なもの」を探し、有益なものを選び、生徒たちに渡したいという強い思いが、まさに学校の個性として生徒たちに浸透していくのであろうと想像できました。
 私たち職業教育の分野でも同様に、それぞれの立場の中で、日々、戦っておられる方がたくさんいらっしゃいます。今回、高校2校のお話で共通していたのが、「外部の力として協力を仰ぐなかで、専門学校は機動力が高い」「即戦力を育てるという立場から、生徒たちに高いレベルで“経験”をさせてくれる」という感想でした。これはまさに職業教育の強みです。今後もこの強みを個性として確立し、より開かれた職業教育の世界が子どもたちを幸せにしていくように、私も汗をかいていきたいと思いました。

セーターを着た男性

自動的に生成された説明

板倉 真紀

板倉 真紀Maki Itakura

株式会社グッドニュース
取締役 キャリアマップ編集長

株式会社リクルート入社、HR領域において、企業の採用課題を解決することから、採用のその先にある課題(インナーコミュニケーション領域)までを手掛ける。
業務としては、求人広告・企画商品の制作分野、求人メディアの編集企画が中心キャリア。
その後、事業会社の人事として、外資系ベンチャー立ち上げ・機械メーカーでの機電系人材・経営幹部人材の採用人事、製造業での総務人事部長。その後、キャリアマップ編集長へ。

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