2024.07.19

2020年11月9日 第1回 職業教育シンポジウムレポート

2020年11月9日 第1回 職業教育シンポジウムレポート

2020年11月9日(月)CareerMap主催の職業教育シンポジウムがオンライン形式で開催されました。

テーマは;
第1部:学びの現場から/コロナ禍を超えて発展する職業教育
第2部:オンラインを活用した就職指導への取り組み
です。

新型コロナウイルス感染拡大を受けて、文部科学省と専門学校は授業継続の為にどう対処したのか、詳しい事例と共に紹介されました。第三波の到来の中で、再び遠隔(オンライン)授業に備える必要があるかもしれません。当日ご参加出来なかった専門学校の教務・就職指導などに関わる先生方にも、ぜひ当日の内容からこれからの職業教育におけるヒントを見つけていただけたらと思います。

基調講演『専修学校における遠隔教育の動向について』 
講師/文部科学省専修学校教育振興室 室長 金城太一氏

①専修学校における遠隔(以下オンラインと表記)授業の導入(実施)状況など

  • 4月6日(緊急事態宣言の発出前日)での実施割合は7.4%→1ヶ月後の5月11日には63%に急増。その後も増加して8月では90%超の学校がオンライン授業を実施している。
  • その中で見えてきたオンライン授業の課題
  • オンライン授業の導入が急だったこともあり、学校・学生双方にハード面(通信環境や端末)の知識、スキル不足、ソフト面(リモート授業にあった教材用意や先生の教え方、学生の理解力の向上など)の課題も見えてきた。その課題解決に向けて、今年度の補正予算や令和3年度の一般予算を投じていく。

②文部科学省の取り組みのこれまでとこれから

今回の新型コロナウイルス禍の中で、文部科学省が実施した多くの施策がスライド資料で紹介されていました。

  • 専修学校でのオンライン授業その1つ1つの紹介は割愛させて頂きますが、「オンライン実施の為の資金支援」「オンライン授業のモデル事例の紹介/各学校のノウハウ共有強化(youtube活用など)」「遠隔授業実施にあたって配布資料などに関する著作権処理の一括対応導入」「社会人の学び応援プロジェクト(リカレント学習機会の拡大につなげる)」等々、文部科学省としての新たな取り組みを数多くご紹介いただきました。

目の前にある危機対応(新型コロナウイルス禍での授業の確保)だけでなく、オンライン授業導入を機に、アフターコロナ時代を見据えた施策も紹介されました。

金城氏の基調講演を受けて、CareerMap編集長・板倉真紀さんにお聞きします

Q (西沢。以下同)改めて、金城氏はどんな方でしょうか?
A(板倉編集長、以下同)金城さんは、教育の振興に対して非常に想いの強い方です。鹿児島の教育委員会での取り組みを著書にされていらっしゃるくらい、熱い想いをお持ちの方です。現在所属されている専修学校教育振興室において、生涯学習の推進、その生涯学習の場として専修学校が、今以上に重要な役割を果たせるように取り組まれていますし、リカレント教育を含めて職業教育の場として専修学校の役割に期待を持ち、行動もされています。

Q.例えばどんな事ですか?
A.講演の中でも触れられていましたが「高専(高校・専門学校)接続モデル」です。これは、キャリア教育について各地域の高校と専修学校で一貫性をもたせて取り組む事業です。専修学校あるいは大学など高等教育機関を選ぶ際に、自分はどういう仕事をしたいのか~という職業理解が必要だと思います。それを学校(高校・専修学校)、行政、企業などが連携して行うこと。金城さんはその実現に強い熱意で取り組んでいらっしゃいます。

パネルディスカッション『with コロナにおける職業教育の新たな挑戦』

<パネラーの皆様>

  • 文部科学省専修学校教育振興室室長 金城太一氏
  • 学校法人小山学園専門学校東京テクニカルカレッジ校長 白井雅哲氏
  • 学校法人国際共立学園国際理容美容専門学校副校長 工藤佑輝氏
  • 学校法人大和学園京都調理師専門学校校長代行 田中幹人氏

①各学校の取り組み施策の紹介
 最初に今回の新型コロナウイルス感染に対しパネラー各位の学校がどのように対処したのかが紹介されました。
いずれの学校も、政府が2月27日に出した「小中高等学校の春休みまでの休校要請」に準じて、学生及び教職員の安全確保を再優先し、授業や各行事(卒業式など)を取り止めています。学生の想いを考えると辛い決断が多かったことを今も苦しそうに語っているパネラー各位でした。

 その後は急ぎオンライン授業の準備を行い、金城氏の基調講演であったように順次オンライン授業を開始、その割合を高めていきました。専門学校に多い「実習、実技系」の授業実施も細心・最大の注意や工夫を図って実施した経緯が紹介されました。

②設問コーナー

「導入施策で成果のあったこと」「課題が残ったこと」などの質問について、各学校から語って頂きました。

  • TPOに関わらず学習機会が提供できる
  • 企業と教室をオンライン化し、リアルな授業を実施した
  • オンライン授業のシステムソフトが色々あり、状況に合わせて使い分けができた

  • 成績判定が難しい事や、学生の成績(習得力)にばらつきが大きくなったように感じる
  • 学生が家庭にいることで学習意欲に差が生じること、学力に応じたきめ細かい対応が出来ないこともその要因かと思う
  • オンラインでは、本格的な実習は難しい部分(限界)がある
  • (オンラインではこまめなフォローができなく)突然の退学も数例あった

再び、CareerMap編集長・板倉真紀さんにお聞きします

Q.パネラー各氏の回答で板倉さんが印象に残った事は何ですか?
A.当然ながら、どの学校も本当に努力されていましたね。
 その中で、東京テクニカルカレッジ様は遠隔授業に対応できる基礎(ネットワーク環境など)があった事や、指揮命令系統・組織体制なども含めて、今回の事態に対処した事に感心しました。こういう事態になったとき、学生の授業姿勢が受け身(受動的)から主体的・能動的になったと伺っていましたので、学生さんの変化にも感心しています。

Q.国際理容美容専門学校様については如何ですか?
A.理容美容は「衛生関連分野」ですので、こういう感染対応は素早く出来たのだと思います。除菌液剤を学校内で製造というのはさすがですね。工藤様が語っていた「危機管理室を設置し、リスクマネジメント(出来るだけリスクが生じないように活動する)とクライシスマネジメント(起きるかもしれない事を想定して準備する)に対処する」というのは共有したい事ですね。

Q.同じく大和学園様についてもお願いします。
A.大和学園も衛生分野ですから衛生管理が日常的に大事です。ですので、感染防止対策への初期動作が2月下旬から開始とのこと、早かったですね。動画を使った授業の導入は最も早かった学校の1つです。また「食ウェビナー(セミナー)の開催」でコロナ後を見据えた活動なども印象的です。

Q.課題も仰っていましたが?
A.そうですね、共通性を感じるのは、学校側以上に学生側の課題というか遠隔授業で学ぶ事の難しさですね。学生(の家庭)によって「通信環境」に差があったでしょうし、家で実習を行う環境も異なります。独りで学ぶのは意欲面でも苦しいものがあったと思います。会社員のテレワーク(自宅などでオンラインを使った仕事)でさえも、難しい事が多いと言われていますからね。

Q.CareerMapが役に立てた観点としては?
A.私たちが提供しているCareerMapはオンラインで就職活動支援ができます。学校・学生・登録企業の3者がオンライン(ネットワーク)でつながり、学校が学生に助言したり、企業から学校に情報提供が出来るなどです。
実際に導入されていた企業さまから、CareerMapを導入していたので、就職指導が滞らずに済んだというコメントを頂いています。

第二部『オンラインを活用した就職指導への取り組み』

第二部は今回のシンポジウムを主催したキャリアマップ社の就職支援システム「CareerMmap」の機能説明、導入学校の実例紹介です。

①CareerMap の紹介

CareerMapは、専門学校さまの就職・進路指導システムとして6年前にスタートしたシステム
CareerMapの特徴としては、大きく8つ;
1.求人票がwebで学校に届きます。紙での管理が不要
2.学生の登録・卒業生の登録継続により、学校からメッセージを発信することが簡単にできる
3.使用することで、学生の就職活動の動きがデータで蓄積されるため、就職指導に活用ができる
4.全てのデータを集計し直さなくても、システムで自動的にデータを集計してくれる
5.学生の就職活動状況もwebで確認しやすくなる
6.企業がアップされる「先輩の活躍」により、卒業生の活躍も確認できる
7.卒業生への一括送信も可能
8.webでの検索・管理で、業務効率がアップできる

(シンポジウム資料から引用)

②学校サイドの導入経緯及び活用事例の紹介

辻調理師専門学校、修成建設専門学校(両校ともに大阪の学校)の就職指導組織の担当者がCareerMapの導入に至る経緯、導入時の問題・課題、今後の活用策について語って下さいました。

両学校分を合わせて要点を紹介させて頂きます。

両校ともに、学生に配信する求人票は長年、企業から届く紙の求人票が基本でした。そこにある問題としては;

  • 求人票作成にかかるコスト(時間的なものが最も大きい)
  • 作成した求人票の不備チェック&修正にかかる負担(精神的、時間的)が大きい
  • 学生、学校双方にとって“検索性”が低く、学生側(適職の発見)、学校側(きめ細かい指導)共に不便

特に、今の学生の視点(活用端末)はスマホであり、就職支援もスマホに対応させないといけなかった。

  • コスト低減
  • 就職指導の質向上
  • 検索性の向上など


これらは一体のものであり、前記の諸問題の解決になると考えた、とのことです。

  • 新しいシステムの理解獲得(学生、当該部署の担当者双方)が大変だった
  • 新しいことへの抵抗感(これも双方にとって)があった

▼ その壁を超えるべく、

  • 学生1人1人に丁寧に登録を説明、実行し、活用策も指導した
    ※専門学校生にとって重要な就職活動書類・作品ポートフォリオを企業に直接送ることが出来るなど
  • 企業へも紙での求人情報提供からネット(CareerMap画面)で直接入力することで種々の手間が省けることを実体験していただき、理解を得た

自己アピールとして、ポートフォリオを活用する学生もいます。

ここでもCareerMap編集長・板倉真紀さんにお聞きします

Q.改めて、専門学校生の就職活動の特性は何ですか?大学などと何が異なるのですか?
A.専門学校は大学と異なり、学生と学校が緊密に連絡、連携を取り合って進めるのがメインになっているということです。
専門学校は、職業教育を主軸としています。学校としては、就職するまでが、学校教育としていますので、就職指導が非常に重要になります。

Q.なるほど、そうですね。就職指導に役立つCareerMapの機能で特徴的なものは何ですか?
A.就職支援だけに留まらない機能があります。学生がCareerMapで取得したIDはサイトの中でずっと残ります。例えば、IDにある「同学校・同学科共通コード」で検索するとオンラインで同窓会のようなものが開催できます。また、学校側はその学生の社会人になってからのキャリア履歴が把握できるし、相談事があれば応じてあげられます。キャリア支援サイトとして活用できます。

Q.それは素晴らしいですね。学校側として就職後に新たな学び直し(リカレント教育)のニーズも把握できますね?
A.そうですね。今回の新型コロナウイルス感染拡大は仕事人生(キャリア)の進め方にも大きな影響、変化をもたらしていますね。新しい知識、スキルの取得も必要になっていきます。専門学校での再学習とその後のキャリア支援にもCareerMapが貢献できるようにと思っています。

Q.ありがとうございました。

作成後記(西沢)

今回のシンポジウムを拝聴し、新型コロナウイルスが学校での学びに大きな影響を与えた事を改めて痛感しました。それに素早く対処した関係者の努力に心から敬意を表したいと思います。

因みに、今般の新型コロナウイルス感染の世界的な拡大(パンデミック)などを、時代の流れを大きく変えるという意味で「ゲームチェンジャー」と呼ぶようです。例えば、過去に最も大きかったパンデミックの1つ「スペイン風邪」が第一次世界大戦を早く終わせたという説があります。それ以外では、経済、文化などに大きな変化をもたらしたインターネットの普及などの「デジタル革命」もゲームチェンジャーの1つと言えるかもしれません。

新型コロナウイルス感染拡大で、学校での学びにもたらしている「変化」を、新たな気付きも含めて確認したシンポジウムでした。そして、その変化はまだ続いています。この先もその変化に関心を持っていきたいと思います。

西沢 敏美

西沢 敏美Toshimi Nishizawa

キャリアコンサルタント/大阪人間科学大学キャリアデザイン講師

1954年(昭和29年)6月秋田県生まれ、明治学院大学法学部卒業
1978年株式会社リクルート(当時日本リクルートセンター)入社
住宅情報事業部、ホットペッパー事業部、メディア制作局などで営業職、企画編集職、管理職などを歴任
2002年1月リクルートグループの人材紹介会社=リクルートエージェント=転籍 2002年1月リクルートグループの人材紹介会社=リクルートエージェント=転籍
キャリアアドバイザー職として就職、転職の支援を行う
2004年末リクルートグループを退職し、2005年から人事系コンサルタントとして自営
「新入社員導入研修」「リーダーシップ」「キャリアデザイン」「モチベーション」「コミュニケーション向上」など『対人・対自分スキル領域』で研修講師やセミナー運営を実施。
他に 「人事制度のプランニング、導入、運用の支援」 「会議のファシリテーション」「コーチング」など

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