2024.07.23

2021年11月11日 第2回 職業教育シンポジウムレポート

2021年11月11日 第2回 職業教育シンポジウムレポート

2021年11月11日(木)に、CareerMap主催の職業教育シンポジウム第二回「職業教育の未来を創造するトークセッション」が開催されました。

【内容】
第一部:取り組みと提言
第二部:テーマ討論 
①職業実践専門課程の充実について
②職業教育の複線化
③職業教育における高専連携
④職業のDX化
第三部:問いの時間

社会環境・労働環境の変化は著しく、職業実践教育はさらに重要度を増しています。職業実践教育の現状と、そこから見えてきた課題、そして職業教育の未来について語られた今回のシンポジウム。特に今後についての発想転換など、非常に有意義で見応えのある意見交換となりました。当日ご参加いただけなかった専門学校の先生方にも、「これからの職業実践教育」のヒントを見つけていただければと考えています。

【ご登壇者】

文部科学省 専修学校教育振興室長
岡 貴子氏


平成11年中央大学 法学部卒業
同年、文部省入省。教育助成局財務課、施設助成課、文化庁文化財務伝統文化課、高等教育局高等教育企画課、横浜市教育委員会教育政策課。
平成27年高等教育局私学部私学経営支援企画室長、平成30年東京大学経営企画部長、令和元年総合教育政策局地域学習推進課地域学校協働活動推進室長を経て令和3年8月より現職。

学校法人電子学園 理事長
多 忠貴氏

日本電子専門学校 芸術学部 放送芸術制作科 卒業
(株)放送技術社(株)NHKテクニカルサービスを経て、2006年9月、学校法人電子学園入職。
経営計画推進室長、理事、副理事長を務め、2016年1月より現職。
全国専修学校各種学校総連合会 理事、公益社団法人 東京都専修

京都大学総合博物館 准教授
塩瀬 隆之氏

京都大学工学研究科精密工学専攻修了。機械学習による熟練技能伝承に関する研究で博士(工学)。文部科学省中央教育審議会委員(数理探究)、経済産業省産業構造審議会イノベーション小委員会委員、文化審議会博物館部会WG委員、文化庁伝統工芸用具・原材料調査委員、大阪・関西万博日本館基本構想有識者委員会委員などを歴任。著書に「インクルーシブデザイン」「科学技術Xの謎」「問いのデザイン」など。

株式会社グッドニュース 取締役
キャリアマップ編集長 
板倉 真紀氏

株式会社リクルート入社、HR領域において、企業の採用課題を解決することから、採用のその先にある課題(インナーコミュニケーション領域)までを手掛ける。
業務としては、求人広告・企画商品の制作分野、求人メディアの編集企画が中心キャリア。
その後、事業会社の人事として、外資系ベンチャー立ち上げ・機械メーカーでの機電系人材・経営幹部人材の採用人事、製造業での総務人事部長。その後、キャリアマップ編集長へ。

【第一部】取り組みと提言

●取り組み/専修学校をめぐる最近の動向について
文部科学省専修学校教育振興室長 岡貴子氏から、文部科学省総合教育政策局専修学校教育振興室が取りまとめた「専修学校をめぐる最近の動向」を教えていただきました。

①職業実践専門課程等を通じた専修学校の質の保証・向上
②専修学校に対する支援策
③専修学校 #知る専

▼詳細レポート

平成26年に認定がスタートした「職業実践専門課程」は、令和3年3月末現在で学校数1,070校、学科数3,149科と、年々増加。学校と企業が連携して、より実戦的な教育を行うこの課程は、学校・企業・学生にとっていずれもメリットのあるものとなっており、今後もさらなる活用を支援していく。

さらに「専修学校の質の保証・向上に関する調査研究協力者会議」を開催。調査研究協力者会議も実施し、実際の教育現場からの声をキャッチアップ。職業実践専門課程の実質化のサイクルを可視化、PCDAをまわしていくことで実現、強化していく。

②専修学校に対する支援策

■専修学校における先端技術利活用実証研究/
職業人材の養成場面においても様々な先端技術の活用による教育方法等の改善が重要になるとの観点から、遠隔教育の実施(実習授業等においてVR・AR等の先端技術の活用方策について実証・研究するとともに、新型コロナウイルス感染症の影響下等、遠隔教育をソフト面から支えるモデルを開発し、新たな教育手法の普及促進を図る)に力を入れる。

■専修学校と業界団体等との連携によるDX人材養成プログラム/
専門学校と高等学校の有機的連携プログラムの開発・実証・学びのセーフティネット機能の充実強化

■専修学校遠隔教育導入モデル構築プロジェクト/
各業界・分野において、DX(デジタルトランスフォーメーション)に求められる知識や技能を専修学校と業界団体とが連携して明らかにするとともに、効率的にそれらを習得することができるモデルカリキュラムを構築する。

■就職・転職のためのリカレント教育推進事業/
新型コロナウイルス感染症の影響を受けた、就業者、失業者・非正規雇用労働者、希望する就職ができていない若者に対して、大学・専門学校を拠点とし就職・転職につながるプログラムを提供し、受講生のキャリアアップを図る

■高等教育の修学支援新制度等

③専修学校 #知る専
専修学校の魅力がまだまだ認知されていないとの声を受け、「知る専」を立ち上げ。

  • 特設ポータルサイト
  • サポーターへの取材、情報発信
  • ロゴマークを募集。専門学校生が応募し、文部科学大臣賞を選出し採用する

サポーター企業との連携も行ない、インタビューなどの配信も実施。

●提言/これからの職業教育のあるべき姿の提言
学校法人電子学園理事長 多(おおの) 忠貴氏から、以下の提言が行われました。

①職業実践専門課程の充実
②職業教育の複線化
③職業教育における高専連携
④職業教育のDX化

▼詳細レポート

①職業実践専門課程の充実

平成26年4月スタートした職業実践専門課程だが、「企業と専門学校の組織的連携」という主旨が十分に生かされていないケースがあり、充実の議論が進められている。その肝となるのが、PDCAサイクルの定義であり、特に、Pとして「育成人材像の明確化」が必要。個別の企業ではなく、業種や職種・地域として統一された育成人材像を抽出したい。
また、CAとして学修成果の可視化が必要である。企業が望む人材を輩出できているかを可視化するために、卒業生・就職先企業に向けた継続的な評価測定を行い、産学が密接に連携する「職業実践専門課程のあるべき姿」を創造していきたい。

②職業教育の複線化

約60万人が学び、産業界において現場を支える人材輩出を担う専門学校。一方、優れた専門技能を持ち、新たな価値を創造して、社会課題を解決に導くイノベーション人材の育成を目的として制度化されたばかりの専門職大学。その両軸によって日本の高等教育における職業教育の複線化を図る。
しかし、専門職大学・専門職短期大学の認可申請は鈍化傾向にあり、職業教育がアカデミックな教育と肩を並べて高等教育の中に明確に位置付けられ、認知・評価されている諸外国に比して、日本は職業教育そのものが一段低く見られる傾向にある。この環境を何としても打破しない限り、日本の職業教育に未来はない。双方における教育の質を高めながら、広く未来を担う人材を継続的に育成・輩出していくことを国内外に強く発信したい。

③職業教育における高専連携

【都立高校・専門学校・企業等が連携してIT人材の育成を目指す「Tokyo P-TECH」の紹介】
高等学校と2年生カレッジ(短大/専門学校など)を接続した5年間のIT人材育成プログラムを実施。「情報化・グローバル化が進む時代において、様々な変化を自ら楽しみながら主体的に学び、新たな社会を共創するIT人材」の輩出を目指している。
変化の激しい時代において、「産業界の人材ニーズ」に対し「マッチングを強化する」という観点においては、専門学校や専門職大学が高等学校と有機的に連携して、真に社会で必要とされる人材の育成に努めていくことが肝要である。

④職業教育のDX化(隔授業の標準化と質の保証、DXを推進する人材の育成)

遠隔教育は、コロナが終息するまで、対面に戻るまでの時限措置ではなく、今後、職業教育を推進していく上での重要な仕組みのひとつ。今後の職業教育の在り方の一つとして、「遠隔授業」を位置付け、「標準化」していくべき。また、コロナ禍によって、デジタルへの対応不足が改めて顕在化。「ICTの浸透によって、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」という概念を持つDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する人材の育成が急務である。これまでの縦割りの産業構造の一部から、構造に横串を入れ、金融・製造・医療・農業等、あらゆる分野を支える「手段」にしていかなくてはならない。

(CareerMap編集長 板倉 所感)
国としての7年にわたる「職業実践教育」についての取り組みと課題、今後の取り組み計画が共有され、一方でそれを実行し学生たちと向き合ってこられた現場からの提言が聞けたことで、職業実践教育の現状が理解できました。専門的な人材を輩出するために、より実戦的で質の高い教育を行おうとすればするほど、産業界の協力がなくては本質的な解決はできないということが浮き彫りになったようにも感じます。

【第二部】テーマ討論

第二部では、第一部の提言をもとに4つのテーマについて、立場の異なるお三方により、意見交換が行われました。

テーマ①職業実践専門課程の充実
テーマ②職業教育の複線化
テーマ③職業教育における高専連携
テーマ④職業教育のDX化

テーマ①職業実践専門課程の充実について 「育成人材像の明確化、学習成果の可視化、業界からの評価を軸に、PDCAサイクルを定着させる」

岡室長:
形式的な要件は満たしているが、中身が十分整っていないのではないかという課題はある。具体的な改善の取り組みの好事例を周知しながら、更なる充実を図りたい。また、育成人材像の明確化、学習成果の可視化、業界からの評価が重要になるので、具体的な論点について、「専修学校の質の保証・向上に関する調査研究協力者会議」にて委員などから意見を集めて進めていきたい。

多理事長:
変化の激しい時代において、業界ごとの養成すべき人物像の統一した明確化を得るということが大前提。業界団体との連携が肝要だが、差異がある状態。協働して環境整備を行い、積極的な議論が必要である。また、職業実践専門課程の充実化の先に、学校や学科はどのような果実が得られるのかも充実の鍵となる。認知度向上、社会的信頼、助成など、その明確化・議論も必要。

板倉(CareerMap編集長):
産業界と連携して育成人材像の明確化をということだが、変化が激しい中、難易度が高いように思われる。人材像の明確化について、塩瀬先生から提案をいただきたい。

塩瀬教授:
まずスペシャリストなので、学習成果についての成果分野は見えやすい。そして育成人材像を明確にするために、どこと話をすれば良いかという分野もわかっているはずなので、本来はコミュニケーションがとりやすいはず。これまであまりコミュニケーションが取られてこなかったということが悔やまれる。
また、人材像について思うこととして、大学と比べ専門学校の方がローカライズされているという特徴もあるのではないか。というのも「人材像」として集めた「人材」の出身分布が、学校に近いのではないかと思う。もし成果とか生育環境なども地域限定のものがあり、コミュニケーションをとる相手も限定されているのであれば、そこともっとコミュニケーションを豊かにしていくとい手法もある。変化が激しいといっても地域によって変化のタイミングも異なる。属性をより明らかにすることで、学習成果の可視化もできるかもしれない。習ったことだけではなくて、その後に参加していく職業コミュニティの場所と、必要な能力が明確になれば、つながっていくのではないかと思う。

板倉:
ゼネラリストを育成する大学とは異なり、「専門」があるので、産業界からの協力を得られれば、育成人材像の明確化はそれほど困難ではなくなるかもしれない。また、ひとつの視点としてローカライズがあるとのご提案は新しい。
学習成果ということでは、CareerMapには「ポートフォリオ」という仕組みがある。CareerMap内で学習成果や作品を、登録した学生自らが公開できる仕組みで、学校によっては課題提出先として活用例もある。学校が公開を指定すれば、企業が直接学生のポートフォリオを見ることも可能で、直接だけではなく、デジタルで学習成果や作品にアクセスしてもらえる仕組み。ぜひご活用いただきたい。

テーマ②職業教育の複線化
「日本から最終学歴をなくす」「いつでも学びなおしができる機関に」

岡室長:
当初の予定より専門職大学の設置が進んでいないという指摘もある。理由としては、設置基準が厳しいことや、職業教育そのものへの理解も不十分さが挙げられる。複線化は非常に大切なので、専門学校、専門職大学、それぞれの特徴を把握したうえで、どこに課題があり、どう対応していくのか検討したい。

(質問)専門学校と専門職大学、違いがわかりにくく、学生が選びにくいのではないか

岡室長:
専門職大学:アカデミックな大学体系での設置形態、専門学校はより実践的な教育機関であると考えている。学生に対しては、制度そのものの違いをわかりやすく説明する必要がある。各学校でもそれぞれの特徴のPRをしてほしい。

多理事長:
社会的認知度も異なる。45年の歴史と実績もあり、基盤を築いてきた専門学校に比べ、専門職大学は認知度・理解度も低くて当然。まず完成年度を迎え、成果を出す。そして専門・専門職大学の特徴を学生さんたちに丁寧に伝えていく。その先に複線化が具体的に見えてくると考える。少し長い道のりになる。

塩瀬教授:
複線化と聞いて思うことが2つある。1つは、高校生や高校の先生へのアプローチについて。専門職大学や専門学校について、先生方にどれくらい説明できているのか。日本においては職業観というのがないがしろにされがちで、とりあえず普通科に流れがち。生徒には職業観はないが、その生徒を指導する先生も、実はご存知ないから生徒に指導できない。従って、専門職業教育や専門職大学ができた理由などについて、もう少し丁寧に説明する必要がある。
2つ目は、社会人からへのアプローチについて。専門学校か専門職大学かという複線だけではなく、大学を卒業してから、社会人になってから、という複線もあるべきだ。専修教育の目的としては、もはや日本から「最終学歴」という言葉をなくすことが最大の目的ではないか。いつでも学びなおせる、新しい出発点への経路を作ることが大切ではないか。
入職経路においても、技術系分野は学校という場所を経ないと新しい分野に参入できない。積極敵に専門学校や専門職大学を経て、新しい分野に進んでもらう。OECDが調べている「世界の25歳以上の高等教育での学びなおし指標」において、日本は圧倒的に低い数字。日本では学びを18.9歳で辞めているように見えるのがもったいない。その活路を専門学校・専門職大学が担うべきだ。高校生だけへの複線化ではなく、日本の社会人全般の職業教育の複線化へ貢献する機関として認知されることがひとつの手段ではないか。

板倉編集長:
一方通行ではなく、いろんな場面からの学びなおしができる機関として機能するという複線は、たしかに必要。 「日本から最終学歴をなくす」というのが心に残る。

●インターンシップの報告
【修成建設専門学校】
インターンシップへの参加によって、いかに学生が成長するかという実感を、インタビュー動画にて率直に語っていただきました。

CareerMap掲載企業インターンシップを取り入れる企業は15.6%も増加しており、また1週間以上のインターンシップを採用する企業も増えていることを報告しました。

テーマ③職業教育における高専連携
「メンバーシップ型からジョブ型へ移行する新しい職業教育のため、より質の高い連携を」

岡室長:
高校の現場から、専門学校の具体的な教育内容わからないという声もある。高専連携は大切。~実例紹介~IT系高等学校・企業・専門学校の連携。高校と専門学校のカリキュラムと共有し、重複しているものを排除。短期化して人材養成をしている。また農業と社会福祉の連携。農業高校、社会福祉専門学校での連携。地域の特徴を踏まえた連携をしている実例もある。こうした実例の効果なども広く紹介しつつ、活用できるようにしていきたい。

多理事長:
個別の連携というのは、比較的多いが、国を挙げての各分野の専門職人材育成に向けての高専連携が高まっているかというと、まだそこまでは実現できていない。メンバーシップ型からジョブ型への移行という働き方の変化のなか、専門的な知識・技術を有する人材の体系的な育成は国家的に大切なはず。高等学校においても教育内容の改善として職業教育の充実が挙げられている。国や自治体が先導しての人材育成計画も必要だ。

塩瀬教授:
職業教育の充実というのはとても大切だが、功・罪あると考えている。というのも、職業教育をすると、「人の職業観」に引きずられてしまう。これまで日本にはメンバーシップ型の職業観しかなく、最近になって「ジョブ型に移行していくらしい」と、みんな噂レベルで把握しているに過ぎない。ちゃんと話そうとすればするほど、職業観の押し付けになってしまう可能性がある。職業教育を行うならば、細心の注意を払って「新しい職業観」について話していかないといけない。周囲の大人が「新しい職業観」について腑に落ちていない可能性があるなかで、よりスキルを求めていくジョブ型の職業観教育を進めるのは非常に難しい、ということを前提に進めていく必要がある。インターンシップについても、1,2日で行われるような説明会と大差ないものはインターンシップを名乗らせず、実践型で職業観が身につくようなものをインターンシップと名付けた方が良い。実施側にも思惑もいろいろあると思うが、いい連携の中でいい実践型のインターンシップが行われ、学生がきちんと学べるように大人が見守っていけたら良い。

板倉:
大人たちの職業観や考え方が進化していないなかで進めないといけないということで、産業界においても同じく新しい職業観が持てるような先進的な企業事例をより取り上げていくことが必要。

④職業教育のDX化
「職業教育のDX化ではなく、DX人材の育成こそが急務」

岡室長:
DXの人材不足に対応するための教育は国を挙げて行っていくべき。専門学校においてはITだけではなく全8分野においてDX,ICTのスキルは基本的なものとして装着すべき。効率的なカリキュラムプログラムの開発をしていきたい。

多理事長:
現状、日本のDX案件においては、業務の効率化、生産性のプロセスの向上が大部分で、ビジネスモデルの変革はわずか3分の1、そのうち成果を出しているのはわずか7.6%。日本ではデジタル化という言葉がなにか魔法のように使われてしまっている気がする。本来は具体的に何を変えたいのか、何を変えていくべきなのかという目的があり、その手段がDXに過ぎない。一方海外におけるDXでは、ユニコーン企業の台頭が著しく、その8割が米国と中国にあるユニコーンたちが、デジタル技術を駆使して新しいビジネスモデルを生み出し、既存産業を破壊していくと言われている。日本は圧倒的に世界から遅れをとっており、圧倒的にDXスキルを持つ人材も足りない。日本は99%が中小企業であり、その人材を支えているのが専門学校であると言える。各分野・職業の特性を把握し、必要なDX人材を輩出するのも専門学校の責務でもあると考えている。

(板倉 所感)
職業教育の複線化というテーマから出てきた「日本から最終学歴をなくす」。非常に力強く、職業教育の根幹を表現されている言葉ではないかと感じました。「どこから来たか」ではなく「何を知っていて、何ができるか」は、これからのジョブ型雇用において最初に問われることとなるはずです。人生100年と言われる現代において、何歳からでも学びなおしができるリカレント教育の実現は、チャンスにあふれ、必要な人材が必要な場所で、いつからでも活躍できる、まさに循環型社会の実現の第一歩。特にDX人材の圧倒的な不足等を考えると、すぐにでも実現を願うばかりですが、ここでも欠かせないのは企業・産業界との連携。自分たちの利益だけを追求するのではなく、広く未来を創りだす大人としての視点を持って、目指すべき社会の共有が重要ではないかと感じました。

第三部:問いの時間

第三部では、 日本の人事が選ぶHRアワード2021に選出された、塩瀬先生の【問いのデザイン】にならって、対話を生む『問いの世界』にチャレンジしました。時間の都合上、2点のみの問いとなったのが残念ですが、問いのデザインとは、先生曰く「本当にその問題解いてて、いいんですか?」ということ。問題から問い直すというようなものです。

問)専門学校生のスキル・技能がより魅力的に伝わる就職活動とは?

岡室長:
専門学校生の強みはプロフェッショナル。本来は教育の成果を企業向けに学習成果のPRできるはず。学校が企業にPRの場を設けて、有利な就活につなげるというのもある。また企業との日々の連携の中で、学生の力をPRすることも可能であると考える。

多理事長:
特定技能を持っているのが専門学校であるはずだが、それを見てくれている企業がどれくらいあるのか。発表等の場は設けているが、採用という場においては、技能よりも「人物像」を重視しているケースが大変多い。本来は専門性の高い技能知識を多くの企業に見ていただきたい。また専門職大学においては、起業も推進している。アイデアを売り込んで企業にバックアップしてもらうわけだが、専門学校においても同様に、技術を売り込んでいける場を設けられたら考えている。

塩瀬教授:
選ばれようとする考え方は、やめたほうがいいと思う。既存の仕組みの中で選ばれようとすると、どうやったってアウェーになる。専門学校の方が進んでいる場合もある。例えばアパレルの専門学校で学生にデジタルミシンを教えていても、就職先がデジタルミシンが一台もない中小企業ばかりだと、身に着けた最先端の技術が無駄になる。その場合、就職先となる企業や業界を巻き込んで、一緒にデジタル化していましょうという改革が必要。既存の価値観で評価されようと思うと、どうしても引きずられてしまうので、職業教育も就職活動も、みんなで一緒にアップデートしましょうというのが大事。イチからつくっていくほうが良いし、それができる場所を選んだほうが良い。選ばれるという就活からの脱却。せっかく専門職大学といった新しいものができているので、それに乗って新しい流れができるといいですね。

問)~最後のご挨拶にかえて~
職業教育が目指すべき未来とはどのようなものか

塩瀬教授:
今までの職業教育を新しくするというのではなく、そもそも求められているものが変わってきているので、今の時代に必要な職業教育を新たに一緒に作りましょうというのが大事。最終学歴をなくすというのと同時に、専門学校・専門職大学があらゆる世代の新しい学びの場となることを願っている。

多理事長:
学歴偏重が色濃く残るなか、専門学校が展開する職業教育に対して、社会からの信頼は必ずしも高いと言える状況ではない。
一方で、「とりあえず大学へ」という風潮に流されない高校新卒者、様々な環境を経て学び直しにリトライする社会人、日本で技術を学びたい・身に付けたいという希望を持つ留学生等、明確な動機を持った人たちの進学先が専門学校であることは明白である。こうした学生のニーズに対し、時代の変化に即した質の高い専門実践教育で応え、社会で必要とされるプロフェッショナル人材を継続的に輩出する。こうした実直な取り組みが、結果的に社会からの評価や信頼に繋がり、専門学校が進学先の一つとして大きな選択肢になる。このような好循環による専門学校の振興を、あるべき未来像として目指していきたい。

岡室長:
今日のトークセッションを受け、社会がこれだけ大きく変化している時代においては、変化を前提とした専修学校教育・職業実践教育を行うべきだし、そしてそれを支える専門学校の在り方自体も考えていくべきと実感した。プロフェショナル人材を輩出する専門学校が振興できるよう、考えていきたい。

(板倉 所感)

専門学校生の就職活動について日々考えるなかで、専門学校生の就活が大学生と同じフォーマットで行われることに、疑問を感じていました。また同時に、これは学生や学校だけが考えてもどうにもならないという限界も感じていました。

2018年12月に発表されたISO30414は、人的資本の情報開示のためのガイドラインです。企業の持続的な成長は、事業の中核を担う従業員のスキルや、従業員のディスカッションの中で生まれるイノベーションがあってこそ。グローバル化が進み、ITの発展によって働き方や価値観が大きく変わる中、企業が人的資本に対してどのように取り組んでいるのかを明らかにするのが「人的資本の開示」です。企業も、人材に対する考え方を、今一度見つめ直さなければならないタイミングが来ています。まだまだ学歴偏重や既成概念が色濃く残る現実のなかで容易ではないかもしれませんが、「何を知っていて、何ができるか」を問われる未来に向けて、学校関係者の皆様が次に考えるべき「問い」は見つかりましたでしょうか?共に職業教育の未来を創り出していきたいと改めて強く感じた機会となりました。ありがとうございました。

板倉 真紀

板倉 真紀Maki Itakura

株式会社グッドニュース
取締役 キャリアマップ編集長

株式会社リクルート入社、HR領域において、企業の採用課題を解決することから、採用のその先にある課題(インナーコミュニケーション領域)までを手掛ける。
業務としては、求人広告・企画商品の制作分野、求人メディアの編集企画が中心キャリア。
その後、事業会社の人事として、外資系ベンチャー立ち上げ・機械メーカーでの機電系人材・経営幹部人材の採用人事、製造業での総務人事部長。その後、キャリアマップ編集長へ。

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