文部科学省と経済産業省が行う キャリア教育・職業教育支援


ここでは教育を支える文部科学省、経済活動や産業活動を支援する経済産業省が行うキャリア教育と職業教育の支援についてご紹介していきます。
【文部科学省の取り組み】
文部科学省が支援する、高・専一貫のプログラム開発
文部科学省では、学生が早い時期から将来のキャリアを見据えた学びができる環境を作ろうと令和3年度から高・専一貫のプログラム開発を実施しています。その取り組みについて、文部科学省の米原泰裕氏と大塩宏太氏に具体的な取り組みや今後の展望についてインタビューしました。
お話を伺ったのは・・・

文部科学省 専修学校教育振興
室長
米原泰裕氏

文部科学省 専修学校教育振興室
専修学校第二係長
大塩宏太氏
高校と高等教育機関が連携してキャリア教育を推進
近年、キャリア教育の重要性が増しており、例えば、先の学習指導要領の改訂の中でも令和4年度から高校での必修科目として「公共」が導入され、特別活動などと連携し、自立した主体として社会に参画する力を育む中核的機能を担うこととされている。総合的な探究の時間など、高校では現在、学校の教育活動全体を通じて、かつ、主体的かつ対話的な深い学びによりキャリア教育が推進されている。
「高校卒業後は高等教育機関である大学や専門学校において学びを深めていくことになります。ただ高校時代、具体的な職業イメージを持つ機会が依然として少ないというのが現実です」と課題を指摘するのは、文部科学省専修学校教育振興室長の米原泰裕氏だ。
職業イメージを持つ機会を増やす取り組みとして、文部科学省では令和3年度から「専門学校と高等学校の有機的連携プログラムの開発・実証」事業を開始し、高校や専門学校、企業、自治体などが協力して新たなカリキュラムを開発。実証授業を重ねることで、実効性を高めた教育モデルを全国に展開しようとしている。これまでの高校と専門学校の連携に関する取り組みでは、専門学校から出前授業や職業体験講座の提供などをしていたが、高校と専門学校で一貫したカリキュラム構築をするところまでは至っていなかったという。しかし、「Tokyo P−TECH事業※1」を参考としたこの事業では、高校と専門学校が一緒になってカリキュラム構築を行っているという。
この事業を担当する大塩宏太氏は、一部では高校と専門学校の連携が進み、高校時代から専門分野に関する学びを体験できるようになっていると話す。特に情報分野では専門学校と情報科のある高校が共同でカリキュラムを作り、シームレスな学びを提供する動きがあると説明。
「京都コンピュータ学院では京都府立京都すばる高等学校や三重県立亀山高等学校など、情報系高校と連携。専門学校では高校と同じ内容を重複して学ぶのではなく、1年次の学びを高校のカリキュラムと統合。これまで2年次に学んでいた内容を1年次に先行して学習し、2年次からはより高度な技術や資格取得、インターンシップに重点を置くようになっています」(大塩氏)
同学院では「ハイフレックス型授業※2」を実施。今注目を集めている生成AIを授業テーマとして取り入れるなど、時代のニーズに合った学びを提供している。また複数の学校がオンラインでつながることで、異なる学校の学生同士が交流しながら学べるようになり、協働的な学びも実現していると評価する。
時代のニーズに応じた学びができるという点では、専門学校は社会の変化に対して柔軟に対応できる教育機関であると米原氏は語る。
「専門学校は、社会のニーズに迅速に対応できる教育機関です。新たな分野にも積極的に取り組み、地域や企業と連携しながら、各地域における職業教育のリーダーとしての役割を果たしてほしい」(米原氏)
大塩氏は「リスキリングや学び直しの機会を提供し、より多くの人々が実践的なスキルを身につけられる場になってほしいと考えています」と期待を寄せていた。

※1…Tokyo P−TECH事業とは、都立高校と専門学校の5年間の一貫したカリキュラムで、企業や自治体などと連携してデジタル人材の育成を図る事業のこと。
※2…ハイフレックス型授業とは、対面授業とオンライン授業を同時に行うハイブリッドと、生徒・学生が対面かオンラインかを自由に選択できるフレキシブルを組み合わせた授業のこと。
【経済産業省の取り組み】
経済産業省が行う「キャリア教育アワード」
経済産業省では、キャリア教育の優れた取り組みを表彰する第14回「キャリア教育アワード」を行っており、これまで全国の企業、団体や教育機関が数多く受賞してきました。今回、この取り組みを実施するに至った背景や今後について経済産業省 経済産業政策局 産業人材課の林美穂氏に話を伺いました。
お話を伺ったのは・・・

経済産業省 経済産業政策局
産業人材課 課長補佐
林 美穂氏
実社会と教育をつなぐ革新的な取り組みを表彰
経済産業省では、子どもや若者に対して働くことの意義や学びと実社会とのつながりを伝える「キャリア教育」をさまざまな形で推進している。今回、14年にわたり実施してきた「キャリア教育アワード」について、経済産業省 経済産業政策局 産業人材課の林美穂氏に聞くと、「これまでキャリア教育アワードでは、企業や団体がどのように教育現場と連携し、実践的な学びを提供しているのかを広く紹介してきました」と語る。
例えば、「第14回キャリア教育アワード」で経済産業大臣賞を受賞した大企業の部、パナソニック ホールディングス株式会社が行う取り組みも好事例の一つだ。パナソニックのキャリア教育プログラム「私の行き方発見プログラム」では、生徒が未来の自分に向けて”なりたい自分“を考えるきっかけづくりとして先生向けの教材提供や社員による出前授業を実施している。
「パナソニック ホールディングス株式会社様の取り組みは10年以上続けられており、教材を日本全国の全ての教育委員会を通じて無償提供してくれています。この取り組みでは、内容はもちろんのこと、全国で展開しているリーチの広さや取組期間の長さが評価されています。またコロナ禍を経て、オンラインで複数の学校をつなぎ、出前授業を実施するようになり、決して出会うことのなかった離れた場所にいる学生同士が共に学ぶところも高く評価され、今回大賞に選ばれました」(林氏)
ちなみにキャリア教育アワードでは、大企業の部、中小企業の部、コーディネーターの部の三部門にわかれている。その理由を「大企業は体力がある分、リーチが広い取り組みができます。中小企業は、地域密着型の取り組みができるなどのように三部門、それぞれの良さがあります」(林氏)
キャリア教育を深化させるべく、新たなステージへ移行する
実は14年間続いていた「キャリア教育アワード」は第14回を最後に終了することが決まっている。しかしこれは支援を終了するということではなく、発展的解消であると林氏は話す。
「経済産業省としてはキャリア教育をはじめとした教育施策をさらに深化させるための新たなステージに移行しようとしているところです」(林氏)
現時点で具体的な施策は検討中とのことだが、「これまでの成果を生かし、文部科学省をはじめ関係機関とも連携をし、より実践的かつ包括的な施策の展開を目指していきたいです」と林氏は語ってくれた。

編集・ライター/松葉紀子(spiralworks) 撮影/掛川雅也 イラスト/村上広恵(トロッコスタジオ)
本文はCareerMapLabo Vol.6(2025.3月発行)内の掲載記事です。記載されている内容は掲載当時のものです。

米原 泰弘Yasuhiro Yonehara
文部科学省
専修学校教育振興室長

大塩 宏太Kota Oshio
文部科学省
専修学校教育振興室
専修学校第二係長

林 美穂Miho Hayashi
経済産業省 経済産業政策局
産業人材課 課長補佐
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