2025.06.19

人生の最期を自分らしく。おしゃれな棺桶で葬儀業界に風穴を

人生の最期を自分らしく。おしゃれな棺桶で葬儀業界に風穴を
専門学校で専門性を磨く道を選び、現在その道で活躍しているキャリアリーダーたち。
その歩みと今思い描いている未来について取材しました。

飾専門学校での学びを活かしアパレル会社と玩具会社に勤務

 子どもの頃から人形の服を作るなど洋服づくりが大好き。中学2年の時に「ヒステリックグラマー」の洋服を見て衝撃を受け、「この会社に入る」と決意し、高校卒業後は東京の文化服装学院に進学しました。
 学校の授業はとてもハード。課題も多く、昼夜を忘れて制作に没頭しました。今思い返しても人生で一番勉強した時期だと思いますが、猛烈に楽しかった。「好きなことを学べるって、こんなに嬉しいんだ」と初めて実感しました。
 そして、中2の決意通り、ヒステリックグラマーに就職。憧れの会社での仕事は、本当に楽しかったのですが、女性の先輩たちが皆、結婚と同時に退職していくんです。「私はずっと働き続けたいのに」とモヤモヤを抱えるようになりました。
 そんなある日、合コンで玩具メーカーの女性と意気投合したことをきっかけにその会社に転職。キャラクター子ども服を企画したり、ガールズブリーフをヒットさせたりと経験を活かすことができました。
 そして、入社7年目に関連会社に出向したことが転機になりました。新規事業を任されたことを機に「葬儀具」を企画立案したんです。
 20代のとき、学生時代の同級生や友人が相次いで亡くなったのですが、皆おしゃれで個性的だったのに、葬儀は昔ながらのスタイル。私はこんな葬儀はしたくないし、無機質な骨壺に入りたくないと、「おしゃれな葬儀具」の企画をずっと温めていたんです。そこでスワロフスキーをあしらったデコ骨壺などを作り、展示会に出展したところ、大きな反響を得ることができました。
 そのとき、参考商品として海外のキャラクター「ロディ」をあしらった骨壺を出品したのですが、お子さんを亡くした親御さんから「可愛い骨壺に出会えて、ようやく子どもをお墓に入れてあげることができる」との声をいただき、この会社で葬儀具をやる意味があると確信しました。ただ、キャラクターを葬儀具に使用することへの抵抗は予想以上に強く、あきらめず何度も提案し続けましたが状況は変わらず。「自分でやるしかない」と2021年に独立しました。
 その際、「デザインがまだ入っていない葬儀具」として着目したのが棺桶です。人生の最後にこだわりを持つならば、「最期に入る個室」である棺桶にもデザイン性を持たせたい。職業訓練学校に通って壁紙貼りを学び、好きな布地を貼った可愛い棺桶を作ってみました。そして展示会に出展したところファッションビルなどに誘致されるように。若い女性からの「かわいい」との反響が特に大きかったことを機に、「入棺体験」を本格的にスタートしました。「映える写真」が撮れるというだけでなく、「入棺することでそれまでの辛い人生をリセットできる」などと評判を呼び、これまで700人以上が入棺体験しています。
 今後は、棺桶のキャラクター展開を積極化する計画。先日、ロディの棺桶を発表し、10年越しで商品化を叶えましたが、この後も有名キャラクターの葬儀具を発売予定です。日本のキャラクターは海外でも人気なので、世界中の人に「これに入りたい」と選んでもらえるような棺桶を作りたいと思っています。

(写真左)文化服装学院時代の布施さん(前列右)。ニットでウエディングドレスを制作した時の模様
(写真右)東京・森下の終活スナック「めめんともり」には、入棺体験に参加した人の「人生が変わった」などさまざまな声が付箋でびっしり貼られている

たとえ失敗経験であっても無駄になるものは一つもない

これまでの人生を振り返って、無駄になる経験は一つもないのだと実感しています。文化服装学院を卒業して30年経ちますが、学んだ技術がストレートに、今の仕事に役立っています。当時築いた先生や同級生との関係性も未だ強く、前職でも今の仕事でも、コラボレーションが進んだりしています。
 学生の皆さんにも、ぜひいろいろなことにチャレンジしてほしいですね。たとえそれが合わなくても、「合わない」とわかれば他の「合うもの」が見つけやすくなるので、メリットしかありません。チャレンジこそが、自分の人生を作り出す最良の手段だと思います。

編集・ライター/伊藤理子 撮影/刑部友康
本文はCareerMapLabo Vol.6(2025.3月発行)内の掲載記事です。記載されている内容は掲載当時のものです。

布施 美佳子

布施 美佳子Mikako Fuse

「GRAVE TOKYO」棺桶デザイナー

文化服装学院卒業
秋田県出身。文化服装学院卒業後、アパレル会社のデザイナーを経て、1999年に大手玩具メーカー入社。アパレル事業部の新規開発担当としてガールズブリーフなどをヒットさせる。関連会社出向時の2015年、フューネラルグッズブランド「GRAVE TOKYO」を立ち上げる。2021年に独立しオリジナルの棺桶づくりをスタート。現在、アトリエやイベント会場での入棺体験や、入棺体験を交えた企業研修などを展開。

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