2024.06.27

子どもの将来の可能性を広げるには

子どもの将来の可能性を広げるには
子どものころに紙飛行機が好きで宇宙に憧れ、現在、生まれ育った北海道で宇宙開発の最先端を手掛ける植松電機の植松努代表取締役。
小中高校生向けの体験教室を行い、専門学校で教鞭をとるなど、教育にも力を入れる植松氏に夢を手に入れるためにはどうすればいいのか?インタビューしました。

父親の会社を継いで、気づいた人材育成の大切さ

―大学ではどのようなことに力を入れてきましたか? 

 私は幼いころに紙飛行機が好きで、祖父が月面着陸をテレビで見て喜ぶ姿を見て、宇宙に興味を抱きました。そこから飛行機やロケットの図鑑を無我夢中で読みふける日々を過ごしました。やがて大学で流体力学を学び、大手メーカーに入社。航空機づくりの中でも花形の部署である設計に配属され、幼いころからの夢を実現させたのです。でもいざ夢が叶ってしまうと、次はどうしたいのか、よくわからないまま時間が過ぎていきました。このまま同じことを繰り返すことに疑問を感じ、”自分は何をしたいのか?“を問い直し、飛行機が作りたいという幼いころに抱いた夢、つまり原点に戻ったのです。

―しかし当時、飛行機づくりに携わっていたのでは?

 私が担当していたのは空気力学。確かに飛行機の形状を決められる最高の仕事でしたが、実際作った飛行機を触ることも見ることもできませんでした。ドアやタイヤなどを作った方がよほど実物に触れるチャンスがあるのです。そのうち、実物に触れられるモノづくりがしたいという思いが強くなり、父親が経営する会社にもクレーン車や除雪機があったことを思い出しました。そして地元に帰り、父親の会社で飛行機づくりに挑戦しようと決意したのです。
 ちなみに父親は自動車に搭載されている電機部品を修理する仕事をしていて腕は一流。しかし当時、自動車業界は変わり始めていました。これまで車が故障したときは部品を修正して乗り続けるのが普通でしたが、壊れたところを丸ごと取り換えるようになり、修理仕事も減っていったのです。当時、父親は「最近の若者は全然技術を覚えようとしない」とボヤいていました。でもボヤいている場合ではなく、後に続く人材育成する努力をすべきでした。その努力をせずに全て一人だけでやっていたので技術が引き継がれませんでした。その様子を見ていて人を育てる重要性をひしひしと感じたのです。

―なるほど。そこから専門学校でどうして教えることになったのですか。

 ”人を育てるためにはどうすればいいのだろう“と考えながら、父親の会社経営を引き継ぐことになりました。やがて経営が軌道に乗ると、自分の事業で培っている技術を教育で生かせないか? と思うようになり、そんな折、専門学校から講師の話をいただきました。学科を新設するということで声がかかったのですが、いずれ自分でも学校を作りたいと思っていたので快諾しました。

―専門学校以外でも教育についてさまざまな取り組みをされていますね。

 本日も中学生向けのロケット教室を行っていました。幼稚園や小中高校生向けに体験教室なども積極的に実施しています。その中で気づいたことがあります。ロケット打ち上げの際、ボタンを押すのですが、「ボタンを押したい人?」と聞くと、幼いお子さんたちほど、こぞって押したがるのに対して、高学年になればなるほど、「お前、行けよ」となぜか後ろ向きの反応になる。これには”なぜ?“と首をかしげたのですが、後ろ向きに変わってしまうのは教育が関係するのではと思ったということも教育に関わるようになったきっかけの一つです。

―なぜそれほどまでに教育にかける思いが強いのでしょう。

 幼少期を振り返り、つくづく思い出されたのは大人たちに否定され続けられることのつらさでした。小学校に入ると、学校の勉強をしなければならなくなるわけですが、私は勉強よりも飛行機の図鑑に夢中でした。すると周囲の大人たちは「学校以外のことに夢中になっているから頭が悪い」と否定するわけです。幸い、私は当時、偉人の伝記を読むのも好きだったので、偉人と呼ばれる人たちは独学で偉業を成し遂げた実績を知っていました。だから周囲の大人から否定されても、なんとか好きなことを曲げずに堪えられました。でも当時幼かった自分が、周囲の大人や学校の先生の話をまともに受け止めていたら、とっくに自分は壊れていたはずです。

やみくもに勉強しろということは、子どもたちの思考力を奪う

―教育で大切にされていることがあれば、教えていただけますか。

 全ての学校、先生がそうというわけではありませんが、とにかく学校での勉強が全てだと言わないことが大事ではないでしょうか。お子さんたちに学校の学びだけでいいということは、言い換えれば、大人が言ったことだけ学んでいればいいということにもなりかねません。すると、お子さんたちは自身の中にある好奇心に目を向けなくなり、自分で考えることをしなくなる。つまり、お子さんたちの思考力を奪うことにもつながりかねないのです。また講演などに出向くと、よく「子どものやる気スイッチを押して」と言われるのですが、実は大人が諦め方を教えなければいいだけの話です。

「大人の常識を押し付け、諦め方を教えなければ、いずれ子どもたちは世界を救える人になれるかもしれない。」

―諦め方を教えるとは、具体的にどういうことでしょう。

 アドバイスという英単語がありますよね。単語のつづりを見ると、Advice、冒頭のadはaddの付け加えるという言葉から来ています。だから否定や禁止、強制はアドバイスではありません。でもお子さんの夢を聞いたときに「どうせ無理」などと言っていませんでしょうか。これが諦め方を教えるということです。
 アドバイスとは情報を与えること。 例えば、医者になりたいお子さんがいれば、医者を紹介する。先生や保護者の方は、自分の代わりに医者にいろいろな話をしてもらうための橋渡し役になればいいのです。進路指導でよくあるのが、大人が子どもだったときに親から言われたことをそのまま伝えてしまうという間違いです。進路指導の場で20年先の話をしているのに、先生や保護者の方は20年前の話をしてしまうことがあるのですが、情報としては古すぎますよね。
 また、進路指導をされる方の中には、専門学校を大学よりも下と考える人たちがいます。ですが、お子さんの夢から逆算して必要なものを洗い出し、そこに最短でたどり着くためには専門学校が近道のケースもあれば、大学が近道のケースもあるのです。学歴社会にとらわれずに指導すれば、子どもたちの可能性を、未来を広げることにつながるのではないでしょうか。
 先生は元来、生徒や保護者を含めると、多様な社会との接点があるので、そのネットワークを生かして、世界をぐんと広げて情報収集していただきたいです。そこで集めた情報を子どもたちに伝えるだけで貴重なアドバイスになるのです。

―最後に読者の皆さんへメッセージをお願いします。

 学生さんたちが夢を見つけたとき、もし大人から”できない理由“を突き付けられたとしても、負けずに自分の夢に突き進んでほしいです。そうすれば、きっと自分の居場所が見つかるはず。誰かと比べ、競争するのではなく、自分が輝ける場所を見つける時間を確保してほしいです。例えば、俳優になりたければなればいい。どの仕事についても食べられるかどうかは別の話で、まず挑戦してみなければ力がつきません。将来どうすのか?ではなく、やりたいことがあれば、今すぐ取り掛かって欲しいです。

取材・文/松葉紀子(spiralworks) 撮影/大谷康介
本文はCareerMapLabo Vol.5(2024.1月発行)内の掲載記事です。記載されている内容は掲載当時のものです。

植松 努

植松 努Tsutomu Uematsu

株式会社植松電機 代表取締役
継続型就労支援A型作業所
(株)Unizone 代表取締役

実業家。大学で流体力学を学び、名古屋にある航空宇宙産業に携わったのち北海道に戻り、リサイクル用バッテリー式マグネットを開発。株式会社植松電機を起業。北海道大学でロケットエンジンの研究に携わっていた永田教授との出会いを機に、現在はさまざまな宇宙開発に関わり、全国の大学生や研究者を技術的にサポート。また、全国の学校での講演やロケット教室の実施を精力的に行う。

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