ICT端末を配布するなど、学校全体のDX化を進めてきた常翔学園高等学校。
教員の働き方や生徒の学び方は、大きく変化した。
2022年度より校長に就任した田代浩和先生に、ICT端末の導入時から現在までの変化を聞いた。
常翔学園高等学校
1922年創立、大阪市旭区の私立高校。設置学科は、「スーパーコース」「特進コース」「薬学・医療系進学コース」「文理進学コース」の4コース。実社会で活躍できる人の育成を目指し、キャリア教育や探究学習、グローバル教育に力を入れている。
「ガリレオプラン探究」は勉強への動機付けにも繋がる
「ICT端末を配布してからは、全教員を対象に生徒の学びをサポートするツールであるClassi(クラッシー)とロイロノート・スクールの使い方についての研修会を実施しました。使用に反対する声もあったため、先生方には授業での使用は強制せず『できれば使ってください』とお伝えしました」。徐々に活用が広がり、授業は講義形式から生徒の主体的な活動へと変化していった。
「ICTを使っても、生徒たちの学びが変わっていなかったら意味がない」と力を込める田代先生は、授業スタイルの変化と並行してキャリア教育プログラムも推進した。注目したいのは、「常翔キャリアプログラム」の一つである「ガリレオプラン探究」だ。「スーパーコース」「薬学・医療系進学コース」「一貫コース1類」の生徒が、主に総合的な探究の時間を活用して取り組む。
1年次は基礎研究。2年次は「物理」「化学」「生物」「情報科学」「数理探究」「人文科学」「社会科学」「イノベーション」の8ゼミのいずれかに所属し、個人や複数人のチームで研究活動を進める。3年次は、研究の成果を論文にまとめて発表。学園設置大学である大阪工業大学、摂南大学、広島国際大学と連携し、大学教授からのサポートが受けられるのも特徴的だ。希望したチームには、台湾の高校生とオンライン上で研究成果を発表し合う場も設けられている。使用言語は英語。発表だけではなく、英語で質疑応答をする必要がある。
「生徒たちが社会人になる頃は、今よりもグローバル化が進んだ時代になっています。彼らは台湾の高校生のような、英語を公用語として使う人とも一緒に仕事をすることになる。実際にコミュニケーションを取る体験を通して、英語を学ぶことの楽しさと大切さを実感してほしいと思っています」。
この数年間で、国公立大学の推薦合格者は増加。中には「ガリレオプラン探究」で研究した成果をまとめた論文が合格に繋がった生徒もいると言う。小中学生とその保護者を対象にした同校の入試説明会では、卒業生に学園での思い出や学んだことを語ってもらう機会がある。講演の中で、「勉強するようになったきっかけは、キャリア教育だった」と話す卒業生が多い。田代先生は、自身の変化をこう振り返る。「以前の私は、キャリア教育に力を入れることと、進学実績を伸ばすことは別だと思っていました。それが今、この2つは確実に繋がっていると実感しています」
今後目指すのは、生徒中心の学びを展開する「教育先進校」だ。授業の枠を超えたICT
活用の新たな取り組みに期待したい。
1 バーチャル空間に常翔学園を。「情報科学ゼミ」での取り組み
ガリレオプラン探究」の一つである「情報科学ゼミ」では、メタバースプラットフォームであるcluster(クラスター)上に常翔学園を作ることに挑戦。昨年はSDGsをテーマに、プロジェクションマッピングで社会が「Society5.0」にたどり着くまでの様子をエレベーターに投影した。作品はプロジェクションマッピング甲子園で優秀賞を受賞。
2 台湾の高校生と合同で実施されたオンラインでの研究発表会
毎年6月にオンラインで顔合わせを行い、同年11月に発表する。今年は10チームが希望し、約30人の生徒が参加した。発表では、相手の目を見てジェスチャーを交えながらはっきりと話すことが求められる。英語でのリスニング力やスピーキング力のほか、プレゼンテーション能力も磨かれる。
3 ICTツールの活用で、生徒の学び方に広がりが
「ガリレオプラン探究」のゼミでは、生徒が大学に訪問することもあれば、大学教授が高校に出向いてくれることもある。直接会うことができないときは、ビデオ会議ツールZoomやGoogle Meetを使って質問したりアドバイスを受ける。研究発表の資料作りは、ロイロノートやKeynote(キーノート)を使用し、教員や生徒間での資料共有はオンラインで行う。
編集/編集部 ライター/建石尚子 撮影/内山光
本文はCareerMapLabo Vol.2(2023.1月発行)内の掲載記事です。記載されている内容は掲載当時のものです。
田代 浩和Hirokazu Tashiro
常翔学園高等学校 校長
大学卒業後、英語教諭として常翔学園高等学校(当時、大阪工業大学高等学校)に入職。2000年より進路指導部長としてさまざまなキャリア教育プログラムを推進する。教頭を経て、2022年4月より校長に就任。
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