企業の課題をクリエイティブで解決する産学連携授業が必須に
渡部卓明 氏
資生堂ジャパン株式会社
プレミアムブランド事業本部
カスタマーストラテジー&プランニング部
ショッパーマーケティンググループ
チーフプランナー
服部 元 氏
御茶の水美術専門学校 校長
OCHABI Institute 理事
実際の課題に取り組みビジネス能力を実地で学ぶ
御茶の水美術専門学校では、産学・官学連携授業を必須授業としている。年4回以上、企業や団体、行政機関が抱える課題に対し、どのようなクリエイティブで解決すればいいのかを考え、実際にプレゼンテーションする場を設けている。同校ではコミュニケーションやマーケティングの授業にも力を入れているが、産学・官学連携授業を通して学生が社会人と直接コミュニケーションを取ることで、業界や業種で異なるマーケティングを実地で学べるほか、自分の考えを的確に伝えるプレゼンテーション能力も磨かれているという。
「企業から課題が共有された後は、必ず学生が企業を訪問し、ビジネスの現場を体感してもらうことも徹底。当校での3年間で、社会に出てすぐ活躍できる『経験を通じて就職してからも役立つ、再現性の高いスキルを身につけること』を目指しています」(御茶の水美術専門学校・服部元校長)
実際、就職先では若手のうちからプロジェクトを任される卒業生も多い。また、この授業での経験を生かしてデザインだけでなくマーケッターの道に進む人も少なくないという。
徹底したフィールドワークを基に議論を重ねる
この日、産学・官学連携授業の一環として行われたのは、資生堂へのプレゼンテーション。与えられた課題は、「資生堂のスキンケア方法をZ世代に啓蒙し、習慣化(浸透)させるマーケティングプランの企画」。同校にて、ギャラリー形式で2~3年生の4チームが成果発表を行った。
優秀賞に選ばれたのは、2年生4人による2ーEチーム。企画・提案したのは、体温でとろける板チョコ型の乳液「C2 melt(ココメルト)」だ。スキンケアは基本的に1人で行う行為であり、メイクと違ってすぐに見た目が変わるものではないため、前向きに取り組みづらいと感じている人が多いことに注目。「スキンケアは孤独な行為である」と結論付け、スキンケアに足りないのは、その習慣が楽しくなる体験だと考察した。
「ココメルトは、板チョコのようにパキっと割って手で溶かしながら使用しますが、1片は2人で使うのにちょうどいい量にしています。いつ、誰と使おう? と考えるワクワク感と、友人や家族、大切な人と一緒に溶けていく感触を楽しむことができます。原料であるカカオバターはフェアトレードのものを使用し、遠い国の誰かに手を差し伸べられる商品にしたいと考えています」(西本さん)
同チームは企画立案にあたり、スキンケアに関する意識調査を行い、コスメショップを回るなどのフィールドワークを実施。そして自ら収集した情報を基に、4人で何度も意見を出し合い企画を作り上げた。
「”とろける“というキーワードが出てからは、ココメルトのアイディアにたどり着くのは早かったのですが、試作に苦労しました。寒天やゼラチン、シアバターなど溶ける材料をいろいろ試し、カカオバターに決まったのは締め切り4日前。皆で協力しながら何度も固めては掌で溶かす作業を繰り返しました」(北島さん)
「ギャラリー形式でプレゼンテーションを行うので、商品の特性や意図、思いが伝わる展示物づくりにも力を入れました。3Dグラフィック担当やパース担当、商品のウェブサイト担当など、それぞれが得意を生かし、役割分担してこだわりのブースを作りました」(杉山さん)
この授業を通して4人は、反論を恐れず自分の思いや意見を伝える大切さ、前向きに議論を重ねることの重要さを学んだという。
「互いの意見を尊重し、どんな意見も前向きに検討できたと思います。以前は自分の意見を否定されるのが怖いと感じていましたが、躊躇せず思いが伝えられるようになり、大きな自信になりました」(谷上さん)
的確な視点とイキイキとした発想・デザインが魅力
約20年前から御茶の水美術専門学校との産学・官学連携授業に参加している資生堂。同社で長らく商品開発に関わる渡部卓明氏は、次のように話す。
「我々が企画をすると、文字や数字ばかりで固めようとしがちですが、御茶の水美術専門学校の学生さんが考えると、イキイキとした発想とデザインが加わり、カタチになるのが魅力。クオリティの高さに、毎回ハッとさせられます。授業を通して、デザインに関する技術だけでなく、『社会に出たら何が求められるようになるのか』を重視した教育を行っているからこそ、視点が的確だと感じます。だからこそ、普段我々が実際に悩み、考え続けていることをぶつけることができています」
服部校長は、「学生たちには、どんな課題であってもマーケティングの視点からプランニングを行い、それをベースにデザインを考えるよう教えている。だからこそ作品ではなく、実際に棚に並ぶ『商品』を目指した企画立案ができている」と話す。このような教えのもと、同校の学生は日々、より実践的な学びを続けている。
本文はCareerMapLabo Vol.5(2024.1月発行)内の掲載記事です。記載されている内容は掲載当時のものです。
服部 元Hajime Hattori
御茶の水美術専門学校 校長
OCHABI Institute 理事
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