2024.11.18

高校×専門学校×企業の三者が取り組む次代建築リーダー育成

高校×専門学校×企業の三者が取り組む次代建築リーダー育成
少子高齢社会となり、一定の業界では人材不足が社会の課題として注目を集めています。それらの課題を解決するために有効な職場教育の”エコシステム“がどのように進化しているのか、先進的な取り組みを行う2つの事例について深掘りしてご紹介していきます。

川上 悟史 氏
神奈川県立神奈川工業高等学校
進路ガイダンスグループ 総括教諭

白井 雅哲 氏
学校法人小山学園
専門学校東京テクニカルカレッジ校長

佐藤 慶之 氏
清水建設株式会社
東京支店人事部長

市場は堅調なのに慢性的な人材不足の施工管理技術者

 2025年の大阪万博、2027年開通予定の品川・名古屋間のリニア中央新幹線など、大規模な建設プロジェクトが次々と立ち上がり、建設業界ではこれらを支える若手人材が求められている。「世間の情勢によって多少浮き沈みはありますが、建設投資は比較的堅調に推移しています」と話すのは清水建設・東京支店人事部長の佐藤慶之氏だ。
 今回、職業教育のエコシステムの事例としてご紹介する、神奈川工業高等学校と東京テクニカルカレッジ、清水建設が2023年4月から取り組んでいる「次世代建築リーダー育成コンソーシアム」は、高校から専門学校の7年間を通じて、施工管理業務にあたる若手を育成する取り組みだ。「以前からカリキュラムに関する助言を行うなど、お付き合いのあった東京テクニカルカレッジ様から神奈川工業高校様と一緒に取り組む、次世代建築リーダーの育成プログラムに協力してもらえませんか?というお話をいただいたとき、すぐさま”チャレンジする価値がある“と考えました」(佐藤氏)
 清水建設の採用活動では、近年、採用数を確保するために必要な母集団形成はできているものの、少子高齢化の影響から応募数は逓減傾向にあり、いずれ人員の確保が困難になる時期が来ることを懸念していると話す。この採用における課題について、人事部はもちろん、上層部も把握していた。そのため、この取り組みに参加することについて、上層部から許可を得ることはそれほど難しくなかったと振り返る。

認知度を高め、若年層から職業観を醸成することが大切

 一方、神奈川工業高等学校で進路指導を担うグループの総括教諭である川上悟史氏は、「施工管理技術者に対する認知度は低く、建設業界に興味を持った生徒の大半は職人か建築士を目指して入学します。しかし入学して施工管理技術者の仕事を知ると、多くの生徒は施工管理技術者を志すようになります。また建築士を志向する生徒は大学に進学するものの、建築士の求人がそれほど多くないため、建築士をあきらめて施工管理の道に進む人が多いです。そのため、職業観が醸成されないままで仕事に就く人のなかには、”こんなはずじゃなかった“と途中で辞めてしまう人もいます」と指摘する。
 施工管理業務はデスクワークに加えて、現場を仕切る仕事である分、大変だが、建物が完成したときの達成感は他の仕事では得難いものがある。しかし、そうしたやりがいを感じる前に辞めてしまう人が一定数いることも現実だ。また、今回の高専産連携のような新しい実践的な職業教育のエコシステムが、世の中に広く認知されれば、こういうキャリアパスもあると中学生にも示すことができ、進路の一つとして工業高校を選んでもらえる。工業高校が社会に果たす役割を明確に打ち出す必要性を痛感していると川上氏は力説する。
「今まで当校から中堅のゼネコンへの就職実績はありましたが、清水建設のようなスーパーゼネコンへの就職実績はありません。それが専門学校を経てスーパーゼネコンに入れる道筋をつけられればという思いもありました」(川上氏)とも話す。
 これまで建設業界で働こうと思ったとき、工業高校で建築を学んで職人の道に進む。もし建築士になりたいなら大学進学が必須という2つのキャリアパスしかないようなイメージが定着していた。しかし、工業高校から専門学校を出てスーパーゼネコンに入り、施工管理の仕事に就くという道が拓かれれば、建設業界の人材不足の解消に寄与すると同時に、工業高校の応募数アップにもつながり、どちらの課題解決にもなる。
 そして、この取り組みで高校と企業をつなぐ架け橋となるのが、日本で唯一、施工管理技術者を育成する「建築監督科」をもつ専門学校である東京テクニカルカレッジだ。
「1年目は興味関心を高めるという意味で、有名建築を回るツアー等を実施します。その後、実際に建物をつくるときに関わる人たち、やりがいなどに少しずつフォーカスを当てて、学んでいただきます。高校時代にマインドを身につけ、高学年、そして専門学校でスキルを身につけていただくというプログラムの流れになっています」と白井雅哲氏は語る。
 次世代建築リーダー育成コンソーシアムはまだ始まったばかりだ。しかし今後、職業教育のエコシステムとして実績を重ねることで、優秀な若手人材を育成し、建設業界の人材不足解消に貢献するだろう。

本文はCareerMapLabo Vol.5(2024.1月発行)内の掲載記事です。記載されている内容は掲載当時のものです。

白井 雅哲

白井 雅哲Masanori Shirai

学校法人小山学園
専門学校東京テクニカルカレッジ校長

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