AIに代替されない仕事に就くため専門学校を選択
森田さんは東京大学を卒業し、大学院中退後にシンクタンクに就職。そして2023年4月にハリウッド美容専門学校に入学し、美容師資格取得を目指して勉強している。高校卒業後、大学・大学院への進学を選んだ理由についてこう語る。
「大学では宗教学を学びました。宗教の中には、生と死の価値観をガラリと変えてしまうようなものもあり、その仕組みを詳しく知りたいと考えたためです。ただ、勉強を通じて、真因は社会の在り方にあるのではないかと感じ、大学院ではメンタルヘルスに方向転換。しかし研究を突き詰められず中退しました」
その後、声をかけてもらった大学内のシンクタンクに就職。そこでは医療政策や政治経済、デジタル・AIなどに関わり、視野が広がったという。その一方で、「AIの進化で、私の仕事もいずれなくなるのではないか」とも思うように。ならば、人間にしかできないクリエイティビティやイマジネーションが必要とされる仕事に就いたほうがいいのではないかと、再び転身を決意。国の職業訓練制度を利用して専門学校で学べることを知り、よりクリエイティビティが必要とされそうな美容学校で学ぶ道を選んだ。
「美容を学びたいと思ったのは、10代、20代にルッキズムに苦しんだ経験も大きく影響しています。年齢や体形などに関係なく、人にはその人ならではの美しさや魅力があるはず。美容を学ぶことで、皆にその事実を発信できるようになりたいと思ったのです」
現在、ハリウッド美容専門学校の1年生。ヘア、メイク、ネイル、エステ、着付けなど美容に関するあらゆるジャンルを学んでいる。
「国家試験対策もあるので、授業はとてもハード。毎日があっという間に過ぎていきます。同級生は、高校を卒業したばかりの10代もいれば、社会人を経験した人などさまざま。目標に向かって頑張る仲間たちの姿に、日々刺激を受けています」
実現したいのは、美容を通じた「ソーシャルグッド」
将来は美容師として、社会課題の解決につながるような取り組みに関わりたいと考えている。
「私はトランスジェンダー(身体的性と性自認が異なる人を示す総称)差別に関心を持っていますが、彼らが戸籍上の性を変えるには、性別適合手術を受ける必要があります。しかし多額のお金がかかるため、踏み切れない人が多いのが現実。世間の無理解から就職活動に困難を覚え、金銭的に困窮する人も少なくありません」
しかし、そういう人にこそ、美容の力が必要だ…と森田さんは言う。最近日本でも、ソーシャルグッド(社会に対して良いインパクトを与える活動)の機運が高まりつつあることを受け、「例えば、経済的余裕のある人からプラスアルファの金額をいただき、収入が低い人には無償もしくは安価で同レベルのサービスを提供するような美容サロンを展開してみたい」と語る。
森田さんは大学、大学院、そして就職した後に専門学校に入る道を選んだが、「いくつになっても学べるのが専門学校の魅力」と実感しているという。
「高校を出たら大学に進学し、就職…などと進路を画一的に捉えすぎず、『これを勉強したい』と思ったタイミングで改めて学ぶという考え方もありだと、私は思います」
ハリウッド美容専門学校
1925年(大正14年)ハリウッド美容講習所を創業。戦後「ハリウッド美容高等学校」を東京・六本木に開設し、一貫してトータルビューティー教育を手掛ける。高度総合美容学科、総合美容学科のほか、ヘアメイク、ファッションなどさまざまなコースが用意されている。
編集・ライター/伊藤理子 撮影/刑部友康、内山光
本文はCareerMapLabo Vol.5(2024.1月発行)内の掲載記事です。記載されている内容は掲載当時のものです。
森田 恵Megumi Morita
ハリウッド美容専門学校
ヘアメイクビューティーコース1年
1989年生まれ、福岡県出身。東京大学文学部卒業後、大学院に進み公共健康医学を専攻。大学院中退後に、大学内シンクタンクに就職し、政治経済や医療政策などの研究に関わる。2023年4月にハリウッド美容専門学校に入学。
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