ここでは、データやインタビューなどから日本における「キャリア教育と職業教育の今とこれから」、そして教育で求められることについて考えていきます。
会社任せだったキャリアを主体的に考える時代へ
文部科学省が公表した令和6年度学校基本調査(確定値)によると、2024年度の大学進学率が過去最高の59.1%に達しています。しかし一方で入試対象となる18歳人口は、約3万4000人の減少が見られます。4年前のデータですが、厚生労働省の「新規学卒就職者の離職状況(令和3年3月卒業者)」によると、就職後3年以内の離職率は新規高卒就職者で38.4%、新規大卒就職者で34.9%という結果が出ています。このことから若者一人ひとりの問題ではなく、社会全体を通じた構造的な問題が存在することがわかります。
これからの日本ではさらに少子高齢化が進み、人生100年時代と言われる中で定年を過ぎても働く人が増えるのは間違いありません。またテクノロジーの進化などにより、働き方が変わったことで企業が求める人物像も変わってきています。このように時代が変化する中で、これまでのように”いい大学に入って、いい会社に入ること“がよしとされた時代のままで進路を検討するので良いのでしょうか。確かにこれまでの日本社会ではいい大学、いい会社に入れば、従業員は守られてきました。というのも終身雇用制度があり、本人が望みさえすれば、よほどのことがない限り、定年まで食べていけたからです。それにこれまでの日本では定年まで1社で勤め上げることが美徳とされていた風潮もありました。
しかしこれからはどうでしょうか。既に今の日本社会では終身雇用制度はほぼ崩壊しています。グローバル化など競争が激化し、日本経済が低成長を続ける状況のもと、1社での勤務経験はもはや美徳ではなく、不十分と見なされてしまうリスクもあります。このように大きく社会が変わっていく中、一人ひとりが自分のキャリアに対して主体的に向き合い、人生における選択を行えるようにすることが急務となっているのです。
教育や体験を通じて広がる選択肢の幅
今回、巻頭インタビューに登場してくれた立崎乃衣さんは、インタビューの中で自身の職業観について、アメリカの国際ロボコンでの参加経験を通じて、”人の役に立つことにやりがいを感じる“と気が付いたと話していました。また、そのコンペの活動費用を出してもらえるスポンサー企業を探す際、さまざまな業種の社会人と話をするうち異なる人生観に触れたことで、自分の道を選択するときの視野が広がったと振り返っていました。
立崎さんのように幼いころから親や学校の先生など身近な人以外の大人と話をする機会があれば、将来、自分がどういう仕事に就きたいのか? を考えようとするとき、幅広い選択肢の中から本当にやりたいことが見つかる可能性は高いのかもしれません。しかし、残念ながら主体的にキャリアを考える人はそれほど多くはありません。

大学進学一択ではなく、職業教育の再評価を
ではどうすればいいのでしょう。弊誌Vol.5に登場していただいた北海道で宇宙開発の最先端技術に携わっている株式会社植松電機の植松努社長は、「子どもの将来の可能性を広げるには、諦め方を教えず、夢や希望を奪わない」ことが第一だといいます。また若者の将来の選択肢を広げるために”いい大学に行き、いい会社に入る“ということが最適解ではないということも肝に銘じておかなければなりません。
大学進学という一択ではなく、特定の職業に従事するために必要な知識や技能、能力や態度を育てる職業教育、つまり専門学校への進学に対しても入るのが難しいかどうかではなく、卒業するときにどれくらいの力が身に付くかということに焦点を当て、再評価すべき時なのです。高等教育のプロセスに進むとき、通り一遍の答えではなく、それぞれに応じて複数の選択肢を提示することができれば、キャリア形成の支援につながるのではないでしょうか。
また2022年度から高校では探究学習の時間を設け、実社会と接点を持てるような授業を実施する好事例が多く出てきています。もし学校で実践的な学びが難しければ、地元企業や専門学校、もしくは後のページで登場するキッザニアのようなところとコラボレーションするのも一つの方法ではないでしょうか。
いずれにしてもいい大学に入り、いい会社に入る以外の選択肢を提示するためには、先生自身が社会とつながりを持ち、いろいろな人とつなぐ力、また、「教える」ではなく、コーチングに近いファシリテートの力が必要になっているのです。

編集・ライター/松葉紀子(spiralworks) 撮影/掛川雅也 イラスト/村上広恵(トロッコスタジオ)
本文はCareerMapLabo Vol.6(2025.3月発行)内の掲載記事です。記載されている内容は掲載当時のものです。

松葉 紀子Noriko Matsuba
株式会社リクルート「とらばーゆ」の編集を経て、2000年フリーランスに。雑誌のデスク業務をはじめ、Webサイトのディレクション、取材執筆などに携わる。「働く」というキーワードを軸に取材、執筆をつづけている。
【趣味】建築巡り(コルビュジエ・安藤忠雄)や海外旅行、空手初段。
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