2024.09.04

地元関係者が取り組んだ、新たな「地産地消スイーツ」の誕生

地元関係者が取り組んだ、新たな「地産地消スイーツ」の誕生

【概要】

世田谷区で学ぶ専門学生と高校生たちが、同区で育てられた食材を使用し、オリジナルのチョコレートを開発。バレンタイン前から当日にかけて、玉川髙島屋ショッピングセンターにて、7日間限定販売した。

【ビジョン】
「食」に関心を持つ高校生を増やすことで、専門学校への進学を促し、飲食業界の人材不足の解消につなげる。同時に、開発を通して専門学生のスキル向上、および地域が抱える課題解決も目指す。

<地方創生の仕掛け人たち>

大家桃子 Momoko Oya

学校法人 村川学園 常任理事/広報戦略部長
関西大学文学部フランス語フランス文学科卒業。2007年より学校法人村川学園にて職員として勤務。広報職を経て、現職。

黒岩さや香 Sayaka Kuroiwa

世田谷区経済産業部
都市農業課長 農業委員会事務長
世田谷区の農業の振興と農地保全を担当。農家の方やJAなど関係団体の方と連携しながら、「せたがやそだち」のブランド価値向上に取り組んでいる。

島 康宏 Yasuhiro Shima

東神開発株式会社
SC事業本部 玉川事業部
第2営業グループ 営業担当次長
株式会社髙島屋に入社以来、食料品売場を担当。マネージャー・バイヤーを歴任後、2019年より東神開発株式会社に出向。現在、玉川髙島屋S・C食料品フロアの営業を担当。

地元関係者が一団となって取り組んだ、新たな「地産地消スイーツ」の誕生

 2023年2月8日(水)~14(火)の期間中、世田谷区の玉川髙島屋ショッピングセンター(以下、玉川髙島屋S・C)で「世田谷チョコレート」が限定販売された。その名の通り、世田谷産の食材を使ったチョコレートで、開発したのは学校法人村川学園の山手調理製菓専門学校(以下、YAMANOTE)と世田谷総合高校、深沢高校、松原高校、桜町高校に通う生徒たちだ。
 この取り組みは、YAMANOTEによって発案された。同校の広報戦略部長である大家桃子氏は、企画立案の背景には飲食業界の課題が関係していると語る。「飲食業界は人材不足です。仲介を担う私たちの課題は、専門学校に進む人材を増やすことでした。高校生に商品開発を経験していただくことで、食への興味関心を引き出すことができないかと考えたのです」(大家氏)
 夏休み前の2022年7月、大家氏は世田谷区の高校に話を持ちかけた。コロナ禍で外部との関わりがなくなっていた高校側は、喜んで引き受けてくれたという。並行して声をかけていた、玉川髙島屋S・Cのディベロッパー・東神開発株式会社も「地元に貢献できるなら」と快諾してくれた。食材の確保については、プロジェクトに参加した世田谷区の農家の一人である海老澤健氏に協力を依頼して生産者を募った。その後、世田谷区に相談し、経済産業部の都市農業課と産業連携交流推進課による後援も決定した。
「区内農業は高齢化や後継者不足が課題となっていますので、高校生、専門学校生とのコラボは、私たちとしても非常にうれしいお話でした」(世田谷区経済産業部・黒岩さや香氏)

高校生と専門学生に新たな体験の場を提供。関係者全員が笑顔に

 盤石な体制が整った9月、学生向けにチラシを配布し、参加者を募集。学生が集まった段階で、世田谷総合高校は2チームで2粒、その他4校は1粒ずつ、計6粒のチョコレート開発を開始した。
 製菓の専門知識がない高校生たちは、YAMANOTEが作成したベースのレシピを参考に、購買層のターゲットを考慮しつつ開発に挑戦。一方の専門学生たちはゼロからレシピを開発し、食材の良さを生かすために試行錯誤を重ねた。
 約3カ月間かけて完成した世田谷チョコレートは、発売前に行われた関係者向けの発表会で、プロのパティシエから褒められるほどの出来栄えとなった。
 そして迎えた販売初日。東神開発の島康宏氏は当日の様子をこう振り返る。「最初は正直、不安もありました。しかしイキイキとしている彼らの表情を見たら、一瞬で不安は消え去りましたね。お客さまからも非常に好評でした」
 黒岩氏によると、区の関係者からも喜びの声があがっていたという。「生産者の方が喜んでいらっしゃったのが印象的です。区議会でも話題となっていて、我々も学生が主体の取り組みに参加することで学びが多くありました」
 ちなみに、発売用のチョコレートを制作したのはYAMANOTEの学生たちだ。「販売実習を行うことで、通常の実習とは比較にならないくらいの大量製造を経験できます。この取り組みをきっかけに、学生たちはテンパリング(温度調整)が上手になりました。これは、我が校が重視する『実学』そのものです」(大家氏)
 世田谷チョコレートの取り組みは、来年も実施することが決定している。また、YAMANOTEではフードロスといった地域課題と食を絡めた食フェスの開催など、さまざまなイベントを予定しているという。地域の連携が深まっている今、新たな取り組みの誕生に期待が高まる。


<イベントに参加した生徒の声>

東京都立深沢高校の皆さん
写真左から、新保茉季さん、川口菜々華さん、星野杏南さん、細田桃世さん、小里英真さん

仲のいい友人同士で参加した5名。担当したのは枝豆で、全員で話し合いながら開発を進めた。「想像よりも大変だったけれど、とても楽しかった」「モノづくりに興味が湧いた」といった声があがっていた。

渡邉塔子さん
山手調理製菓専門学校
製菓総合本科1年
私たちが担当したゆずは、中にゆずジャムを入れているのがポイントです。ゆずの余韻が残るように皮を大きめにカットして、香りを楽しむ一粒に仕上げました。取り組みで学んだことを、今後に生かしていきたいです。

編 集/松葉紀子(spiralworks)ライター/西村友香理 撮 影/掛川雅也
本文はCareerMapLabo Vol.3(2023.4月発行)内の掲載記事です。記載されている内容は掲載当時のものです。

大家 桃子

大家 桃子Momoko Oya

学校法人 村川学園
常任理事/広報戦略部長

関西大学文学部フランス語フランス文学科卒業。2007年より学校法人村川学園にて職員として勤務。広報職を経て、現職。

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