カリキュラム構築を担った専門学校教員に、実施までの経緯を聞く。
<今回の主役校:穴吹学園穴吹カレッジグループ>
1985年開校。中国・四国地区に14の専門学校を擁し、一大ネットワークを形成する総合専門学校グループ。開校以来、約39,000名の卒業生が地域社会の企業・病院・施設で活躍している。
中国・四国地区を拠点とする穴吹学園では、2018年から高等学校との連携による「高専接続授業」に取り組んでいる。高等学校の学習指導要綱が改訂され、「総合的な学習の時間」が「総合的な探究の時間」となったことを機に、職業教育機関の視点から企画を立案。高松東高等学校との連携が香川県における第一号の高専接続授業となり、現在は導入8校中2校で高校二年生を対象とした通年授業を行っている。 当初より担当教員として取り組みをけん引してきた、穴吹リハビリテーションカレッジ 理学療法学科の田中裕介先生は、専門学校が高校教育の現場に踏み込んだ背景について次のように語っている。 「専門学校は技術を身につけるところですが、基礎となる〟学ぶ力〝が乏しい学生は目的観が希薄になりやすく、〟与えられたことをこなす〝だけで精一杯になりがちです。課題解決能力や主体的な学びに加えて、生きる力・社会で求められる力の育成をテーマとする探究の時間の授業は、私たちが抱える課題に直結していると思いました」
入学時点で基本的な社会人基礎力が身についていれば、専門学校での学びはもっと有意義で実践的なものになるはず。だからこそ組織の垣根を越えて、子供たちの総合力の底上げに取り組む必要があると考えたのだ。
身近な視点に寄り添って生徒の”自走”を後押しする
「総合的な探究の時間」は生徒たちが主体的にテーマを決め、研究を進めていく授業。最初は何をしたいか尋ねても「わかりません、ありません」という回答がほとんどだが、アンケートやヒアリングを重ねながら関心を引き出し、4週間ほどかけてテーマを決定できるよう導いていく。スポーツをしているなら、「もっと速く走りたい」「打球を遠くに飛ばしたい」などの課題にフォーカス。この研究が自分にどんなメリットをもたらすか、生徒が自分事として捉えることができればしめたものだ。 「多くの生徒は最初、何から手を付けてよいのかわかりません。考えることが面倒だから、できないとあきらめている。なので、まずはこちらがお膳立てして、『やってみたらできた』という成功体験を得てもらうことが肝心だと思っています」(田中先生) たとえば、あるチームに海外の文献を提供したときのこと。最初はいぶかしげな表情を浮かべた生徒たちだが、パソコンの翻訳ソフトの使い方を教えると姿勢が一変。自分たちでどんどん作業を進めるようになった。方法がわかれば生徒は自走し始める。時には教員が想像もしていなかった発想で周囲を驚かせることもあるという。「高校生の吸収力はすごい。一年が経つ頃には見違えるような成長を遂げる。時間をかけて取り組むからこそ実感できる効果だと思います」
腰を据えて関わることで日本の教育の底上げに貢献
田中先生が担当した高校生の中には、その後リハビリに興味を持ち、穴吹リハビリテーションカレッジに進学した人もいる。出会ったころは反応が薄かった生徒が、入学後リーダーシップを発揮して活躍している姿を見ると、喜びと共に高専接続授業の手ごたえを感じるという。「変化や成長というものは、一定の時間を経てはじめてわかるものだと思います。一回一回の授業という “点”が、やがて線や面となって生きる力に変換されていく過程を垣間みると、教師冥利に尽きますね」 田中先生は顔をほころばせると、さらにこう言葉を継いだ。 「縁ができた生徒が私たちの専門学校に入学してくれる、それも喜びではありますが、高専接続授業の目的は日本の教育全体の底上げにあると思っています。子供たちには各々の分野で、世の中に貢献する人材になってもらいたい。これからも背中を押し続けていきます」
前例のない高専接続授業を試行錯誤しながら作り上げてきた穴吹学園。その過程には子供、大人を問わず、それぞれの立場での学びと成長があった。田中先生自身、高校生の潜在能力を目の当たりにすることで、専門学校でも以前に増して学生の意見に耳を傾けるようになったという。「ゆくゆくは小・中学校とも連携できたら」と、更なる地域人材の育成・輩出にむけた取り組みに想いは向かう。これからの進化に期待したい。
【高校生に聞いてみた!体験談】
研究課題や毎回の学習内容はすべて自分たちで決めています。私たちのチームは全員が運動部に所属しているので、怪我をした際の処置やテーピングの仕方をテーマにしました。初めて聞くことや難しい内容もありますが、田中先生が足の模型を使って説明をしてくれたり、英語の文献を一緒に和訳しながら教えてくれたり、丁寧に関わってくれるのでわかりやすいです。さらに興味をもったことは、何でもチャレンジできるよう環境を整えてくれるので、いろんなことを「もっと知りたい!」と思うようになりました。授業で得た知識やテーピングのスキルは、実際の部活動でも活かすことができるので、学ぶことをより身近に感じられるようになった気がします。私たちのためにいろんな準備をして毎回の授業に臨んでくれる先生たちに感謝しています。
【高等学校コメント】
体育科教諭 福井 博三
香川県立高松東高等学校
「総合的な探究の時間」の授業を生徒の将来に役立つ内容にしようと考えたとき、我々教員の力だけでは限界があると感じ専門家の力を借りることにしました。穴吹学園さんには健康福祉・リハビリテーションの分野でお世話になっています。テーマ選びから研究の進め方まで、日常生活の中で「役に立つ」と実感できるよう指導して下さるので、生徒たちも熱心に取り組んでいますね。いつもは控えめな生徒がリーダーシップを発揮するなど、普段とは違う姿を目の当たりにして、こちらが学ぶことも多くあります。高専接続授業で身につけたプラス思考や成功体験が、子供たちの今後の礎になることを願っています。
編集/編集部 ライター/飯鉢仁弥 撮影/内山光
本文はCareerMapLabo Vol.2(2023.1月発行)内の掲載記事です。記載されている内容は掲載当時のものです。
田中 裕介Yusuke Tanaka
穴吹リハビリテーションカレッジ
教務部
同校の卒業生。理学療法士。現在は理学療法学科で教鞭をとる。2018年より高等学校に出向き高専接続授業を実施。自ら学ぶ楽しさを知ってもらいたいと学習教材を自作するなど、工夫を凝らした授業が好評。
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