ゲーム・CG業界へのイメージを変え、業界活性化を目指す
[概要]
文部科学省の委託事業として取り組んだ吉田学園情報ビジネス専門学校の人材育成。札幌市がCG関連の第2プランを改定する際に、吉田学園が委託事業で得た経験をもとにした助言が役立てられた。
[ビジョン]
若年層および保護者へのゲーム・CG業界へのネガティブイメージを払しょくすることで業界の人材育成、さらに道内でのデジタル人材育成・定着を目指す。
<地方創生の仕掛け人たち>
橋本 直樹 Naoki Hashimoto
吉田学園情報ビジネス専門学校 校長
1992年同校を卒業後、吉田学園へ入職。2020年から吉田学園情報ビジネス専門学校の校長に就任。21年には「札幌市映像活用推進プラン」の改定委員会の委員長に就任。2023年度は同プランのインターンシップ事業でプロポーザル審査員を務めた。
山本 浩貴 Hiroki Yamamoto
札幌市経済観光局 産業振興部
2004年入庁。税や福祉などの部署を経て、民間の銀行への派遣も経験。その後、再び札幌市に戻り、21年に現在の部署へ異動し、行政の一員として「札幌市映像活用推進プラン」の取り組みに携わっている。
ゲーム・CG業界へのネガティブイメージを払しょくし、道外への人材流出を防ぎ、業界活性化を目指す
業界に対する否定的な印象が根強く存在した
北海道といえば、美しいラベンダー畑や海の幸など、観光のイメージが強いかもしれない。しかし実は北海道はゲーム・CG業界が盛んな地域だ。さかのぼること1980年代初頭、札幌市には『ボンバーマン』などの人気ゲームを輩出した大手ゲーム会社、ハドソンがあった。しかし当時取引していたメインバンクが経営破綻して以降、同会社の経営も悪化。やがて2012年にコナミグループに吸収されてしまったが、同社を卒業した多くの優秀な人材が札幌市周辺で起業したこともあり、今なおゲーム・CG会社が数多く存在している。しかし業界のイメージは決して良くなかったという。
「そもそもゲーム・CG業界に対してマイナスイメージを持った先生や、この業界の就労実態を知らずに進路指導をされている先生が想像以上に多かったのです。そのイメージの払しょくのために、私は高校を繰り返し訪問することで、これらの誤解を解くところから始めました」と語るのは、業界の人材育成に力を入れてきた吉田学園情報ビジネス専門学校の橋本直樹校長だ。
2~3年間、高校訪問を続けた結果、先生たちの業界への理解は徐々に深まっていったが、それでもなお否定的なイメージはまだ根強く残っていると橋本校長は感じていたと当時を振り返る。
ちょうどそのころ、文部科学省が行う2019年度「専修学校による地域産業中核的人材養成事業」(産学連携体制の整備)があり、そこで吉田学園情報ビジネス専門学校は「北海道におけるデジタルエンタテインメント関連人材育成体制整備」を提案。無事に採択され、事業化されたことで同専門学校は業界を盛り上げるべく、精力的に動き出した。
「当時、行政や企業など全部で18団体に参加いただき、地場の業界に貢献できる人材育成を目指して、若年層向けのイベントを実施していました」(橋本校長)。しかしイベント運営を始めるとその難しさに直面した。告知をしてもなかなか多くの人に情報が届かないという難しさやイベントを通じて人材育成につなげたいという思いで突き進んでいたものの、協賛してくれていた企業の担当者からは「目指す方向が違う」という声も上がっていた。
歯車が良い方向へと動き出した矢先、コロナがある世界が始まった
イベント運営以外、国内外の好事例の視察にも積極的に足を運んだ。
「米国のハリウッドに近いことからゲーム・CG産業が盛んなカナダのバンクーバー市やモントリオール市へ視察に行きました。カナダでは政府が最大37.5%の法人税制優遇措置や人件費の補助なども行っています。それに現役クリエイターたちの人材育成への理解があり、昼間でも夜間でも最先端技術を使って指導しています。授業料やカリキュラムは日本とほぼ同じなのに、より高い質の教育がなされているのを見て、北海道でも同じような教育をどうにか学生の皆さんに届けられないものかと考えるようになりました」(橋本校長)
ほかにも国内では、神戸市が産官学と連携しながら実験都市を推進する市民参加型フェスティバル「078KOBE」という取り組みを行っていたため、現地の関係先を視察。さらに福岡県にある大人気コンテンツを生み出しているレベルファイブなどで構成されるゲーム団体で、インターンシップやゲームコンテストが実施されており、その視察には札幌市の担当者にも同行してもらったという。
文部科学省の採択事業として始まり、少しずつ前へと進み出していた矢先に新型コロナウイルス感染症がまん延。専門学校でもオンライン授業への切り替えなど想定外の緊急対応に追われたため、ようやく動き出した歯車が途中で止まってしまった。そのことが今でも心残りだと橋本校長は悔しさをにじませる。
札幌市のCG施策改定の際、吉田学園が経験をもとに助言
北海道におけるデジタルエンタテインメント関連人材育成体制整備プロジェクトは、2019年度に文部科学省の採択事業として終了した。一方、札幌市は平成26年(2014年)「映像の力により世界が憧れるまちさっぽろを実現するための条例」を制定し、取り組むべき映像活用施策を『札幌市映像活用推進プラン』として策定。第1期は撮影誘致に注力していたが、当初のプラン策定から5年が経過しようという中で、新型コロナウイルス感染症が広まると同時に、テクノロジーの進化が加速。そこで第2期のプランを策定することになった。第2期では、実写(映画)とCGのバランスをとりつつ、エンタメだけではなく、広告表現も大事にするための改定を行った。
「第1期プランの見直しをかけるタイミングで、私は経済観光局に異動してきました。委員には、CGアニメ制作会社や広告代理店、実写作品に造詣が深い人物なども入っていただき、橋本校長先生には委員長としてご尽力いただきました」(札幌市 経済観光局 山本浩貴氏)
そして、第2期プラン改定の中で調査したところ、札幌市周辺にはゲーム・CG関連の会社が数多くあるということが判明した。札幌市は豊富な経験がある橋本校長はじめ委員たちにアドバイスをもらい、現在は専門学生、大学生向けインターンシップやワークショップを積極的に行っている。
「第2期プランを策定し、実施を通じて、ゲームやCG業界を目指す人たちの背中を少し押すことができたかなと実感しています」と笑顔の山本氏。これからもこの取り組みを続けていきたいと話してくれた。
「人生100年と言われる時代、急速な少子化が進み、技術の進歩などで高等教育の在り方が問われています。変化の激しい社会ニーズを捉え、これからも有為な人材育成に努めていきたいです」(橋本校長)
2022年には、首都圏のゲーム企画・開発会社が札幌市に進出したこともあり、ゲーム・CG業界による経済および地域活性化が期待される。今後の展開がますます楽しみだ。
<学生さんのコメント>
川田 夏乃さん Natsuno Kawata
CG学科2年
中学のころからゲームに没頭し、将来、ゲームに関わりたいという気持ちがあり、迷いながらも大学へ進学。だが、入学後も「本当に学びたいこと」とは思えずに葛藤していました。オンラインゲームを通じて知り合った人と会話するたび、「やっぱりゲームの道に進みたい」と思い、一念発起。まずは大学を辞めてゲームの道に進みたいと両親を説得。最初は心配から反対していた両親でしたが、私の本気度を理解してくれて応援してくれることになりました。 今はCGを学んでいるのですが、好きなことを追及しているためかもしれないのですが、知識の吸収力がまったく違います。先生の案内で2022年10月、札幌市が地元のゲーム開発企業と連携して開催する主催の「Sapporo Game Camp2022」を知り、参加。このイベントを通じて、参加者全員で協力しないとゲームは完成しないということを実感したのと、実際、ゲーム作りを経験したことのある人も参加していたので、より仕事をリアルに感じることができるようになりました。それに将来、ゲーム作りに携わり、より多くの人に愛されるゲームを生み出せるようなクリエイターになりたいという思いが強くなりました。
【プロジェクトの年表】
編集・ライター/松葉紀子(spiralworks) 撮影/保田敬介(郡山市)、大谷康介(札幌市) 本文はCareerMapLabo Vol.4(2023.8月発行)内の掲載記事です。記載されている内容は掲載当時のものです。
橋本 直樹Naoki Hashimoto
吉田学園情報ビジネス専門学校 校長
1992年同校を卒業後、吉田学園へ入職。2020年から吉田学園情報ビジネス専門学校の校長に就任。21年には「札幌市映像活用推進プラン」の改定委員会の委員長に就任。2023年度は同プランのインターンシップ事業でプロポーザル審査員を務めた。
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