地元新潟で、日本経済を支える人材を育てる
今年度からスタートした取り組みの経緯と成果を担当教員に聞いた。
<今回の主役校:新潟県立新発田商業高等学校>
1917年開校の歴史ある商業高校。校訓の「一事専念・堅忍不抜」をモットーに、倫理観を重視しながら個性の伸張を図り、個に応じた進路を目指す。卒業生は20,000名を超え、新潟県内だけでなく、国内外で広く活躍している。
須戸 修
新潟県立新発田商業高校 校長
新潟県出身。県内の高校で商業科の教員としてのキャリアを積んだ後に、教育センターや教育委員会で幅広く学校教育に携わる。2022年度より校長に就任。生徒一人ひとりが故郷への誇りを持ち続けられる教育を目指す。
企業ニーズと新入社員の職業理解にギャップがあった
全企業のうち、中小企業が99%を占める新潟県。地域経済の発展には、中小企業の持続的な発展が重要だ。技術や商品、サービスの開発はもちろん、長期的な視点で企業の経営戦略を練っていくことも不可欠である。そのため、経理やマーケティングの専門知識を持った人材が求められているが、課題もある。経理職として採用された新卒社員が早期に離職するケースが多いと言う。その原因はさまざまだが、企業のニーズと新入社員の職へのイメージにギャップがあることが考えられる。
この課題を解決するために始まったのが、新潟会計ビジネス専門学校による「実践的な経理事務の授業による早期スキルアップ事業」だ。本事業は文部科学省の委託を受けており、令和3年度から取り組みが始まった。卒業生の約半数が専門学校に進学する新発田商業高等学校と連携し、教育プログラムを開発・実施する。
目標は、入社後に短期間で戦力となり、さらに従来よりも高いスキルとポテンシャルを有した、企業の利益創出に貢献できる人材を輩出すること。高校向けには、「就労意識醸成講座」や「日商簿記オンライン講座(3級から1級)」を開講し、目的意識を持ち、高校で学んだ技能を活かした進路決定をする生徒の増加を目指す。
偏りのない情報源から正しく理解する力を
今年度の就労意識醸成講座では、高校2年生を対象に産業情報を扱う際のリテラシーを高める講座を実施。経済活動に基づいた産業情報の調べ方を学び、新潟県で発展してきた産業について理解を深めた。
多くの高校生にとって進路を決める際の情報源となっているのがインターネットである現状に対して、新潟会計ビジネス専門学校の川島副校長はこう指摘する。「発信者の意図によっては、偏った情報が流れてくることもあります。講座では偏りのないデータを扱い、自分で正しい情報を見極める力を身につけることを意識しています」
講座ではインターネットでの検索の他、さまざまな業界の業績や提携関係をわかりやすく解説した本や経済産業省が運営するWebサイト「RESAS 地域経済分析システム」を利用して情報収集を行う。4人グループで地場産業を調べたり、それぞれの知識や考えをシェアしたりする時間が多いことも特徴的だ。
選択肢を広げ、目的意識を持って進路を決める
新発田商業高等学校の須戸校長は、本事業への期待をこう語る。「これまでの授業の中でも産業に関する内容を扱ってきたので、講座で出てきた用語を知っている生徒は多かったのではないかと思います。ただ、複数の教科の授業で扱っているので、学んだことの繋がりが見えにくいという課題もありました。就労意識醸成講座は一貫した教育プログラムなので、学んだことと自分の進路をどう結びつけていくのかまで考えられるのではないかと思っています」
さらに、日商簿記オンライン講座の受講によって資格取得に繋がれば、生徒の就職や進学への道が大きく広がることとなる。「学習指導要領で定められているカリキュラムの中にも簿記の授業はありますが、日商簿記検定に合格することを目的とした内容ではありません。日商簿記の資格を持っていることは就職や進学で有利に働くことが多いので、そのためのサポートに繋がる講座があることは大変ありがたいなと思っています。オンラインでの受講なので、さらに高いレベルに挑戦したい意欲のある生徒のニーズに応えられることも魅力だと感じます」(須戸校長)
教育プログラムの開発段階である今は、講座を受講した生徒のアンケート結果や関係者での議論を基に、実施時期や内容について検討を重ねている。今後も「日本経済を底支えする中核的人材の育成教育を新潟が牽引していくこと」をビジョンとして掲げつつ、令和6年度以降は企業定着率を高める教育プログラムを新潟県全体の専門学校と高等学校へ普及させることを目指す。
【高校生に聞いてみた!体験談】
新発田商業高等学校 情報処理科 2年生
土谷耀生さん
中学時代はラグビーに打ち込んでいました。高校進学時はスポーツ推薦をもらっていたのですが、将来を考えたときにラグビー以外にも選択肢を広げておきたいと思って商業高校に進学しました。今は公務員として会計に関わる仕事に就きたいと思っています。
就労意識醸成講座は、今までの授業とは違った切り口で新鮮でした。社会全体の動きを見るのは会計の仕事において大切だと思うので、いろんな産業情報を知っておくことや調べ方を身につけておくことは重要だなと思います。
高校を卒業した後は、会計の専門学校か商学部のある大学に進学したいと思っています。とにかくレベルの高いところで学びたいですね。学校は県外でもいいのですが、僕が生まれ育った新潟はすごく好きな場所なので、就職するときにはここに帰ってきたいなと思っています。
【専門学校のコメント】
NABI 新潟会計ビジネス専門学校
副校長 川島淳子
学校法人国際総合学園(NSGカレッジリーグ)が運営する複数の専門学校で、事務局・広報を担当してきた。2022年度より、NBC新潟ビジネス専門学校とNABI新潟会計ビジネス専門学校の副校長に就任。
NABI 新潟会計ビジネス専門学校
1997年開校。新潟県内に29の専門学校を展開する学校法人国際総合学園が運営。開校以来、税理士や会計職への就職や資格取得を徹底してサポートしている。
早期から専門性を育てる仕組みを日本全国へ
卒業後の就職先で、自分のスキルを活かしながら柔軟に働き、企業に貢献できる人材を育成したい。そんな思いで、今回の事業への取り組みが始まりました。地元のことをよく知らずに首都圏での就職を目指すのではなく、まずはどのような企業があり、地場産業として何が栄えているのかを正しい情報として知ってもらいたいと思っています。それと並行して会社の仕組みを知り、目的意識を持って自身の進路を考えてもらいたいですね。
弊法人は医療や農業など、29校のあらゆるジャンルの専門学校を運営しているので、今後は会計以外の分野においても様々な学校で就労意識醸成講座を展開していきたいと思っています。最終的には、この取り組みを全国に広げていくことも視野に入れています。
編集/編集部 ライター/建石尚子 撮影/松田舞
本文はCareerMapLabo Vol.5(2024.1月発行)内の掲載記事です。記載されている内容は掲載当時のものです。
川島 淳子Junko Kawashima
NABI 新潟会計ビジネス専門学校
副校長
学校法人国際総合学園(NSGカレッジリーグ)が運営する複数の専門学校で、事務局・広報を担当してきた。2022年度より、NBC新潟ビジネス専門学校とNABI新潟会計ビジネス専門学校の副校長に就任。
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