農業×観光業を軸に人を呼び込み、つながりを広げ、地域を盛り上げる

【概要】
地域活性化を図るため、都市部から優秀な人材を地域おこし協力隊として呼び込む中富良野町。食体験を通じて食べ物以上の価値を持つガストロノミー、これを観光と結びつけて発信するガストロノミーツーリズムをカリキュラムに取り入れている学校法人村川学園(以下村川学園)と農作物の生産者たちと協力し、生産者訪問やレシピコンテストを実施するなど、さまざまな取り組みを行っている。
【ビジョン】
観光×農業という中富良野町の強みを引き出す取り組みとして、食を通じて将来、料理人の道を目指す学生と生産者をつなぐなど、長い時間をかけて産官学連携を強化させることで、関係人口を増やし、地域活性化を目指す。
<地方創生の仕掛け人たち>

大家桃子 Momoko Oya
学校法人 村川学園常任理事/広報戦略部長
「ガストロノミーツーリズムの認知が広がり、地方で活躍する人材が求められる昨今、料理をつくるだけでなく、その地域が抱える課題を解決し、広域で活躍する人材になっていただきたいです。今後もこうした取り組みには積極的に協力したいです」

福嶋雅一 Masaichi Fukushima
中富良野町 企画課 地域プロジェクトマネージャー
「最初、そもそも料理の専門学校の方が地方に興味を持ってくれるのか、という疑問がありました。ですが、お会いするとその心配をよそに生産者に話を聞くことが学びにつながると言っていただけたので安心しました。今回のような取り組みをこれからも続けることで、中富良野町の活性化につなげたいです」

小松田 清 Kiyoshi Komatsuda
北海道中富良野町 町長
「現在、産官学連携を推進し、町の活性化を目指しています。そこで町の主要産業である農業の発展と持続可能性を重視。農作物の生産だけでなく、消費を促進するための付加価値が必要です。行政だけでは新しい取り組みを進めるのは難しいですが、今回のように産官学が連携することで関係人口を増やすことで地域住民にも利益が還元される形を目指したいです」

遠藤康仁 Yasuhito Endo /遠藤ファーム
「若い世代に農業の大切さを伝えたいと思い、学生さんの受け入れを積極的に行っています。学生さんが実際に生産者の思いを知ることは単なる知識ではなく、おいしさの本質を理解するきっかけになるのでないでしょうか。ちなみに、コンテストの料理はおいしくいただきました」
坂本章義 Akiyoshi Sakamoto /さかもと農園
「食べ物は人の身体をつくる重要な要素であり、調理する人にその思いをバトンタッチしたい。自分にできることがあれば協力したいという思いで参加しました。ちなみにうちの農場は完全オーガニックの農業スタイルです。今回のコンテストを通じて、皆さんの未来への可能性を感じました」
情報収集の中で見つけた専門学校とのコラボという糸口
生まれも育ちも中富良野町で、大学卒業後は役場に入庁し、町が抱える課題と長年向き合い、2019年7月、中富良野町の町長に就任した小松田清氏。中富良野町の強みである農業と観光業を盛り上げるべく、さまざまな課題に取り組んでいる。
「都市部から優秀な人材に入っていただき、地域を盛り上げようと地域おこし協力隊の募集を積極的に行っています」と小松田町長。そして地域おこし協力隊の募集を見て、千葉県から定年を機に移住してきたのが企画課の地域プロジェクトマネージャーの福嶋雅一氏だ。
「いくつかの募集の中で、自分の経験を一番、生かせそうだったのが中富良野町でした」(福嶋氏)
定年まで都内の企業でIT関連業務に従事していた福嶋氏。企画の経験はあったが、町おこしは初めての挑戦だったため、まず地域活性化のために何ができるかを考えるべく、情報収集に努めていた。やがて調べるうちにサテライトキャンパスというアイデアに至ったという。実はその前に企業誘致も考えたが、ハードルが高い。そのため、学生を一時的に受け入れるなど、建物などハードを必ずしも用意せずともできるサテライトキャンパスがいいのではと考えたという。そこで提携先を見つけるべく、学校とマッチングを行える内閣府のポータルサイトをチェック。学校が求める要件を確認していたときに福嶋氏は改めて中富良野町の強みを見直した。
「夏にはラベンダー畑が美しく、農作物も豊富。観光と農業という2つの強みを生かすためにどこがいいのかと探し、出会ったのが村川学園さんでした」(福嶋氏)
福嶋氏は早速、東京へ飛び、村川学園の常任理事である大家桃子氏と会った。大家氏は「調理技術は校内で学べますが、食の素材について知る機会をもっと増やしたいです。一緒に取り組みをさせてください」と福嶋氏の申し出に対し快諾した。
これまでも村川学園では、ガストロノミーツーリズムをカリキュラムに取り入れてきた実績があり、目指す方向性が同じだったからだという。村川学園と中富良野町役場が話し合った結果、まずは農作物の生産者を訪問し、食材について知ってもらう研修を実施することにした。そして、2024年2月と9月の2回、村川学園の専門学校生8名が生産者や地元のカフェを訪問。おいしい農作物の見極め方、カフェ開業の経緯などの話を聞く機会を設けた。




2度の生産者訪問を経て、行われたレシピコンテスト
中富良野町の訪問を経て、学生たちに変化が現れたという。生産者の思いを聞いて料理をすることの大切さを知り、視野が広がったというのだ。そして新たな取り組みとして2025年1月18日に中富良野町の農作物(雪の下野菜)を使ったレシピを競うコンテストを開催することになった。このコンテストには村川学園の呼びかけに応じて参加した高校生と専門学生が東日本大会と西日本大会の予選に参加し、勝ち抜いた4組が中富良野町に招かれた。最終決戦は、神村学園高等部「メロメロンシュー」、東京都立農業高等学校「雪ノ下カレーパン」、大阪調理製菓専門学校ecoleUMEDA「中富良野パフェ」、東京山手調理師専門学校「雪ノ下メロンバーガー」の4レシピ、高校生同士、専門学生同士の頂上決戦が行われた。
コンテスト当日、10時から参加者への最終説明が行われ、10時半から調理開始、12時には調理が終了。カフェの経営者や農作物の生産者などを含めた一般参加者が12時半に会場入りすると、4組のレシピのプレゼンテーションが行われた。
今回のコンテストでは地元野菜を使ったレシピをつくり、地元カフェで採用されることを目標としていた。そのため、どの組もレシピを考える際、どうすれば中富良野町の魅力を発信できるのかを検討したと力説する姿が印象的だった。町長やプロのシェフ、野菜の生産者などの5名、そして一般参加者が投票を行い、高等学校の部では神村学園が、専門学校の部では大阪調理製菓専門学校ecole UMEDAが最優秀レシピに選ばれた。今回のコンテストを通じて産官学連携がさらに強化されたと振り返る、福嶋氏。これからさらなるガストロノミーツーリズムの取り組みと広がりが期待される。


<コンテストに参加した学生の声>

大阪調理製菓専門学校 ecoleUMEDA
上田奈央さん Nao Ueda
渡部沙菜さん Sana Watanabe
「中富良野町は北海道のほぼ中央に位置し、訪れるには遠い場所にあります。そこで遠くても来る価値があることを強調できるレシピをと考え、若者をターゲットにし、SNS映えを意識しました。色味がキレイになるようにデザインしました。長い準備期間を経て挑戦したので達成感を感じています」

神村学園高等部 調理科2年
德田華愛さん Haruna Tokuda
上 優さん Yu Kami
「『ワンハンドで食べる』ということと、中富良野町の食材を生かすなどテーマがあり、今までにないものを生み出すのに苦戦しました。自分たちで考えたもので賞をもらえるのはうれしいです。食材を提供してくれた生産者さんや関わった人、すべてに感謝しています」
編集・ライター/松葉紀子(spiralworks) 撮影/上野公人
本文はCareerMapLabo Vol.6(2025.3月発行)内の掲載記事です。記載されている内容は掲載当時のものです。

大家 桃子Momoko Oya
学校法人 村川学園
常任理事/広報戦略部長

福嶋 雅一Masaichi Fukushima
中富良野町 企画課
地域プロジェクトマネージャー

小松田 清Kiyoshi Komatsuda
北海道中富良野町
町長
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