2026.06.30

地域の課題を学びへ変える。20年続くプロジェクト型教育

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地域の課題を学びへ変える。20年続くプロジェクト型教育
専門学校と地域が協力・連携し、地域再生に取り組む好事例をご紹介する連載企画。
今回は、実在の地域を題材に建築計画を行う地域密着型の実践教育と、渋谷区とコラボして取り組む食育のプロジェクトについて、焦点を当て深掘りしていきます。

【概要】

中央工学校では、実在の地域を題材に建築計画を行う地域密着型の実践教育を20年前から展開している。瀧野川信用金庫の協力のもと、学生たちが北区内の敷地を想定した新築計画を立案し、模型制作やプレゼンテーションまで一連のプロセスを経験。本年度は「喧騒と静寂、また喧騒」「街の交差点」などの4案が発表され、施主や地域関係者との対話を通じて、現場さながらの学びを経験すると同時に地域理解を深めた。

【ビジョン】

地域の特性を生かした建築提案を通じ、学生が実社会と接続する教育環境を築く。産学連携を継続的に発展させることで、地域に貢献する人材を育成し、街の未来を担う人材創出と地域活性化を目指している。

<地域創生の仕掛け人たち>

中央工学校教務部 主任
佐々木 徹 先生 
Toru Sasaki

瀧野川信用金庫様との産学連携は、実は約20年前から続く取り組みです。継続的に地域とつながり、実際の施主様と関わる学びは学生の成長を大きく後押しします。いつか学生の作品が本当に建設されることを、心から願っています。

瀧野川信用金庫 経営サポート部
吉野雅仁 部長 
Masahito Yoshino

持続性をより確かなものにするため、2024年12月に産学連携協力に関する協定を正式に締結しました。これにより、世代を超えて連携を継続していける基盤ができました。当金庫では地域の小学校や高校に向けた授業にも協力し、学びの場を広げています。実在の土地を題材にした学生さんのプレゼンテーションは、毎年新しい発見があります。こうした学びが地域と教育を結びつけ、未来の人材育成につながっていくことを期待しています。

信用金庫との縁から始まった地域密着型プロジェクトの深化

 中央工学校が地域と連携した教育に取り組み始めたのは2005年だ。地域の課題を学生の学びにつなげるプロジェクト型授業は、現在では全国各地の学校で実施されているが、当時はまだ先進的な試みだったという。その出発点となったのが、東京北区、中央工学校と同じ地域にある瀧野川信用金庫との出会いだった。
 「瀧野川信用金庫様から”学校と一緒に地域活性化につながることができないか“とご提案をいただいたのが始まりだったと聞いています」と佐々木徹先生は振り返る。以来、信用金庫を通じて毎年さまざまな施主が紹介され、学生たちが実際にある敷地を 前提とした建築提案を行う授業が定着しているという。  学校では現在、地域と連携するプロジェクトが二本柱で進んでいる。  
 1つめは建築系学生が新築を前提に行う大規模提案(今回誌面で紹介するもの)。もう1つはインテリアを中心にしたリノベーション提案で、近年は北海道・十勝清水町からの依頼を受け、個店のリフォーム案を学生が制作している。いずれも”机上の空論では終わらない“実践性の高さが特徴だ。  
 今回、建築学科4年生と建築工学科3年生の5名のメンバーで構成されたTeam TAGUUが瀧野川信用金庫の協力のもとで参加したプロジェクトも、例年と同じ流れで動き出した。年末には翌年度のプロジェクトの準備が始まり、12月に学校側 から信用金庫へ依頼を送付。年明け2~3月ごろには信用金庫から学校へ施主が紹介され、まずは担当教員である佐々木先生が現地へ出向き、土地を確認し、施主の要望をヒアリングするところから始まる。 「これまで個人で設計プランを立てていた学生たちがグループを組んでこのプロジェクトに向き合うのが今までと違うところです。学校卒業前にそれぞれが挑戦してみたいことを形にする絶好の機会になります」と佐々木先生は語る。  
 その後、施主からの要望を受けたうえでプロジェクトが確定し、4月になると新年度の学生たちでチームが編成される。このチームは建築学科4年生と建築工学科3年生で構成され、互いに専門性を生かしながら課題に向き合っていく。

 現実の制約を踏まえ、施主の期待に応える案をつくり上げる体験は、学生にとって大きな成長の場となるのだ。   Team TAGUUのリーダーに選ばれた建築学科4年生の田口龍さんは、プロジェクトの醍醐味について「実際に施主の方がおられて、架空の設定ではなく”相手がいる“という前提で取り組めたことが大きかったです。現場さながらのリアルな環境で、実際の仕事に近い体験ができた点が印象的でした」と話す。  
 地域の課題に取り組むことは決して容易ではない。毎年、学生同士の意見がぶつかり合うケースもある。 「
 学生たちの発想は空に浮かぶような抽象的な段階から始まることが多いのですが、それを建築として具体化していく過程で毎年必ず悩みに直面します。行き詰まったときには、私たち講師たちは寄り添い助言し、アイデアを建築として成立させるプロセスを支えるようにしています」(佐々木先生)  
 完成した提案は、毎年7月上旬に開催する発表会で直接、施主に向けてプレゼンテーションされる。そこで学生は自らの言葉で意図を説明し、質疑応答を通じてさらに思考を深めていく。実際に社会に出たときに行われる”リアルな対話“を疑似体験できるのが、このプロジェクトの大きな価値だ。  
 メンバーの一人である建築学科4年生の平悠斗さんもプロジェクトを振り返り、こう語る。 「個人の設計とチームで行う設計には大きな違いがあります。チームでの設計では、自分の得意分野をしっかり発揮できる点が魅力だと感じました。今回の取り組みでも、その強みを一番発揮できたのではないかと思っています」  
 20年以上続く中央工学校の地域密着教育。その裏には、地域の声に耳を傾け、学生に本物の学びを届けようとする教員の姿と、実社会の課題に真剣に向き合う学生たちがいる。信用金庫の声掛けから始まった縁は、地域の未来と学生の未来を結ぶ確かな”学びの場″として、これからも継続されていく。


<プロジェクトに参加した学生の声>

建築学科 4年生
田口 龍さん 
Ryu Taguch

現地調査のため街を歩いてみると、音の違いに気がつきました。テーマを決めるまでは早かったのですが、その後、実際の建築案に落とし込んでいくのには苦労しました。

建築学科 4年生
平 悠斗さん 
Yuto Taira

個人で所有しているGoPro(動画が撮れるカメラ)を使って街の様子を撮影しました。街の音がテーマだったので、プレゼンテーションの場で動画を活用することで、臨場感のあるものにできました。

建築工学科 3年生
森山 蘭さん 
Ran Moriyama

これまであまり経験のなかった、チームでの議論の時間が多く、さまざまな意見を聞けたことが刺激になりました。グループで一つの案をつくる難しさと面白さを学べました。

建築学科 4年生
御代 智さん 
Akira Miyo

ADで図面を描く役を引き受けました。変更があるたび、即時対応することでプロジェクトの遅延を防ぐように心がけました。仲間の意見を取り入れて工夫を重ねる過程が自分の学びとなり、参考になりました。

建築学科4年生
堀口海斗さん 
Kaito Horiguchi

これまでの課題は自己完結が多かったのですが、今回は施主様や信用金庫様への提案を前提に進めたことで、自分の力が確かに伸びたと感じています。

編集・ライター/松葉紀子(spiralworks) 撮影/荒井健
本文はCareerMapLabo Vol.7(2026.3月発行)内の掲載記事です。記載されている内容は掲載当時のものです。

佐々木 徹

佐々木 徹Toru Sasaki

中央工学校 教務部 主任

吉野 雅仁

吉野 雅仁Masahito Yoshino

瀧野川信用金庫
経営サポート部 部長

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