2024.07.25

食の原点を体験する収穫したサツマイモでスイーツづくり

食の原点を体験する収穫したサツマイモでスイーツづくり

概要】
埼玉県大宮市の大宮スイーツ&カフェ専門学校が、川越市の特産品である「サツマイモ」を使用し、収穫からお菓子の仕込み・販売までを手掛けた官学連携イベントの取り組み。

ビジョン】
地道な連携事業で培った実績と信頼を糧に、より重層的なフィールドワークにチャレンジ。夢に向かう若者を応援すべく、学外活動の幅を広げていく。

開校当初から行われている産官学連携の取り組み

 首都圏屈指のターミナル都市・埼玉県大宮市で、「技能と心の調和」との教育理念を掲げ、製菓・製パン・カフェのプロを育成する大宮スイーツ&カフェ専門学校。ベテラン講師陣による教育プログラムの導入や、授業で作ったスイーツを販売する 「校内カフェ」の設置など実践に近い学習環境を整備し、即戦力として活躍する人材の輩出に尽力している。
 2011年の開校以来、産官学連携事業にも積極的に取り組んでおり、学校が所在する大宮区や大宮駅周辺エリアを中心に、数々の行事やお祭り、催事イベントに参加。近年は埼玉県下の自治体や企業・団体から問い合わせを受けてコラボレーションする機会も増えており、2023年11月23日に川越市で開催された「農業ふれあいセンターまつり」では、学生が収穫から手掛けたサツマイモスイーツを販売してイベントの成功に貢献した。
 同校における産官学連携事業をけん引するのは、教務主任で西洋料理の専門調理師でもある中野伸吾先生だ。今回の川越市での活動については、「川越出身である当校の代表が、”地域のために何かできないか“と、市役所の方に相談したことがはじまり。2年前から連携させていただくようになり、農業ふれあいセンターまつりへの参加は今回で3回目です」と語る。「農業ふれあいセンターまつり」は、川越市グリーンツーリズム拠点施設で開催されている地域交流イベント。同施設では年間を通じて、農園での収穫体験や調理体験など、農業に関するさまざまな催しが行われている。

サツマイモスイーツで体感する「食の原点」

 今回、大宮スイーツ&カフェ専門学校の学生が手掛けたのは、旬を迎えた川越市の特産品「サツマイモ」をテーマにしたお菓子の販売だ。
 9月下旬に参加が決定、10月に入って学内告知し希望者を募ったところ、10名ほどの学生が集まった。イベント当日まで約一か月、その間にイモ掘りや仕込みも行う少々タイトなスケジュールだったが、参加した学生に尋ねると「近い日程だからこそ、やりたい! と感じたモチベーションのまま参加できるのでいいと思います」との答えが返ってきた。今回の実動日は、イモ掘り、仕込み、当日の3日間だったが、一日のみの参加も可能だったため、手を挙げやすかったという学生もいたという。
 サツマイモの収穫は、川越市グリーンツーリズム拠点施設の畑で行われた。掘り方を教えてもらい、慣れない土仕事にチャレンジ。重量3kgのジャンボサツマイモが現れた時は、その場が騒然となったという。
「普段はビニール袋に入ったスーパーの野菜を買うことがほとんど。土や葉がついた、ありのままの状態の野菜を目にする機会はとても少なくなっています。収穫体験は、その野菜がどんな環境で育ち、もともとはどんな形状だったのかを知る良い機会ですね」(中野先生) 
 参加した学生の感想でも、収穫体験が印象に残ったという声は多いとのこと。食の原点を学ぶ貴重な場となっていることは間違いない。

キャリアの布石をつくる専門学校だからできること

 収穫したサツマイモはSDGsや食品ロス対策の観点から、通常は流通規格外となるものも使用することにした。レシピを考案したのは、同校でパティシエコースを担当する山本淑絵先生。親しみがあり、かつ、学生が作りやすいお菓子との視点から、「スイートポテト」「サツマイモクッキー」「サツマイモチップ」の3種類を決定した。「毎年、収穫量や芋の質に合わせてレシピを組みなおしています。今年の芋は試食した際に、甘みが若干控えめだな、と感じたため、低温で時間をかけて加熱し甘みを引き出しました」(山本先生)
 使用したのは平窯の乾熱オーブン。通常は180度の中温に設定するところ、約100度の低温で3~5時間じっくりと火を入れた。こうすると少しずつ柔らかくなり、ほくほく感も変化すると言う。「普段から授業では、食材の状態にあわせた調理法や工夫、なぜそうするのかということを伝えるようにしています。私もパティスリーでの勤務経験がありますが、現場に出たら目の前の仕事で精一杯になってしまう。理論や背景を教えられるのは、専門学校だからこそ、と考えています」
 そう語る山本先生からレクチャーを受けて、お菓子づくりに取り組む学生たち。「スイートポテト」は大小2種類を用意。紫芋に見立てた「サツマイモクッキー」には、香ばしい黒ゴマをトッピングした。お客様に買っていただく商品づくりには緊張感が漂うが、日頃から「学内カフェ」で商品提供の経験を重ねていることもあり、仕込み作業は順調に進行。無事に商品を完成させた。

 当日は開場後から長蛇の列ができ、商品は約3時間で完売。参加した学生は「自分でサツマイモを収穫して仕込んだお菓子を、直接お客様にお渡しできたことがとても嬉しかったです」「お子さんが満面の笑顔で『美味しい!』と言っているのを見たときは、心からやってよかった! と思いました」と笑顔を見せる。また、「販売イベントは、他の出展者さんと情報交換できる場でもあります。いろんな事例に触れることで将来の夢が具体的になるなど、勉強になることも多いようです」と山本先生。学生たちにとって学外イベントへの参加は、いろんな意味で今後のキャリアの布石になっているようだ。
 地道な産官学連携のあゆみを進める同校。2023年4月に地元のプロサッカークラブ・大宮アルディージャと締結した「相互協力・連携に関する包括協定」も、今後さらなる展開が予想されている。進化を続ける同校の多彩な連携活動に期待が高まる。


川越=さつまいも
その由来は?

 日本にサツマイモ栽培が広がった起源は江戸時代にさかのぼります。大飢饉の折、サツマイモが救荒作物として優れていることを知った8代将軍・徳川吉宗が、栽培を奨励したことが始まり。儒学者だった青木昆陽が中心となり、関東地区でもサツマイモ栽培が開始されました。川越地区では1751年、現在の所沢市・南永井の名主・吉田弥右衛門さんが、サツマイモ栽培の先進地だった現在の千葉県市原市から種イモ200個を取り寄せて栽培に成功。これが川越イモのはじまりと言われています。川越イモは品質の良さに加え、江戸につながる新河岸川を介し多くのサツマイモを船で運搬できたことから、1830年頃には川越地方がサツマイモの産地として知られるようになりました。

川越の伝統的なサツマイモ品種は「紅赤」。120年以上前に発見された日本における最も古い系統の芋で“川越イモの代名詞”とも言われている。


<イベントに参加した学生の声>

パティシエカフェ科 スイーツカフェクリエーターコース 2年
上川床花歩さん

 中学生のとき、ケーキ屋さんで一週間の職場体験をしたことを機に、お菓子づくりに興味を持つようになりました。大宮カフェ&スイーツ専門学校に進学したのは、卒業生である姉に影響を受けてのこと。地元が鹿児島なのではじめは迷いもありましたが、実際の現場で役立つスキルを習得するカリキュラムが魅力的で、この学校で学びたいと思いました。
 入学後は、数々の実習やイベントを通じて、座学だけでは得られない貴重な学びを重ねています。今回参加した、官学連携プロジェクトもそのひとつ。学生時代にひとつでも多くの経験を積みたいと思い、みずから希望してメンバーに加わりました。私はイモ掘りから商品の仕込み・当日販売まで、プロジェクトの全日程に参加。仕込みではサツマイモを濾す作業が大変でしたが、日頃から学内店舗実習で様々なお菓子をつくっているので、個数が多くても慌てずに取り組むことができたと思います。イベント当日は、サツマイモチップスの味付けを担当。自分が掘ったサツマイモで商品をつくり、自分の手でお客様にお渡しすることができたので、とても嬉しかったです。
 卒業後はカフェやレストランを運営する会社に就職が決まっています。人とコミュニケーションを図ることが好きなので、接客とお菓子づくりの両方を経験できる環境に魅かれ入社を決めました。二年間の学びを活かしながら、自分の行動でお客様に喜んでもらえるよう頑張りたいです。また、将来は地元で自分のお店を持ちたいと考えているので、夢を叶えられるように、これからも学び続けていきたいと思います。

編集・ライター/飯鉢仁弥(エンカレぽっと) 撮影/片山貴博、打田研一
本文はCareerMapLabo Vol.5(2024.1月発行)内の掲載記事です。記載されている内容は掲載当時のものです。

山本 淑絵

山本 淑絵Sumie Yamamoto

学校法人三幸学園
大宮スイーツ&カフェ専門学校
パティシエコース 教員

大阪府出身。学校法人三幸学園 辻学園調理・製菓専門学校を卒業後、パティスリーで経験を積んだのち同校に入職。2021年より同法人のグループ校である大宮スイーツ&カフェ専門学校にて勤務。

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