職業へのイメージを具体化することで、キャリア形成を支援
【概要】
2021年から琉球リハビリテーション学院は、医療福祉分野における専門学校と高等学校の先端技術を活用したキャリア教育連携プログラムに関する実証研究事業を行っている。
【ビジョン】
高校の授業でキャリア教育を行うことで、生徒たちが職業への理解を深め、リハビリテーション業界の次世代を担う人材を育てることにつなげる。
<地方創生の仕掛け人たち>
儀間 智 Satoru Gima
学校法人 智帆学園
琉球リハビリテーション学院理事長
身体・精神分野で作業療法士を務め、沖縄の自然・海を生かしたリゾートリハビリを行いたいと同学院を設立し、現在に至る。
福田 聡史 Satoshi Fukuda
学校法人 智帆学園
琉球リハビリテーション学院事務部長
県立高校に自ら足を運び、今回の取り組みの協力を依頼。実施するプログラム作りにも高校とともに力を注いでいる。
玉城 義一 Yoshikazu Tamashiro
学校法人 智帆学園
琉球リハビリテーション学院 学院長
公立校の元校長、専門学校の現校長という経験から高等学校や専門学校、教育委員会などの橋渡しや広報を担当。実施委員会とともに事業の推進を図った。
下地 将生 Masaki Shimoji
沖縄県立陽明高校・
高等支援学校福祉科教諭
介護福祉士と社会福祉士の資格を持つ総合学科総合産業科の教員。高校生とともに高齢者施設に訪問やキャリアビトトーク(旅行業や映画監督など各界で活躍している人の仕事の話を聞く講座)を開催するなど、さまざまな取り組みを行う。
職業へのイメージを具体化することでミスマッチを防ぎ、キャリア形成を支援
医師や看護師などと比べて知る機会が少ないリハビリ職
琉球リハビリテーション学院は、沖縄本島・金武町にあるリハビリテーションに携わる専門職人を育成する設立21年目を迎える専門学校だ。沖縄県における医療福祉の課題について同学院の儀間智理事長は「沖縄県は1人あたりの県民所得が低く、貧困家庭の問題もあります」と指摘する。沖縄県統計課が発表した2019年度の県民経済計算の概要によると、県民所得は過去最高の1人あたり241万円だが、それでも全国平均の4分の3にしか満たない。所得が低いことから沖縄ではさまざまな社会課題があるという。そこで同学院では内閣府が行う「子供の居場所づくり」の事業にも取り組んでいる。放課課後に児童の学習支援や料理、ダンス等のプログラムを行い、夕食をとって帰宅するという取り組みを実施している。ほかにも個々の能力を引き出すよう、カヌーやSUP(サップ)などの自然体験ができる発達支援センター「ぎんばるの海」や障がいを持った方の就労支援する指定就労移行・継続支援事業所「夢のかけ橋」など地域を元気づける取り組みに積極的だ。
数ある取り組みの中から今回ご紹介するのは、同学院と地元の高校や企業などと連携してリハビリテーション分野のキャリア教育を行っている実証研究事業だ。
この事業は文部科学省から委託を受けたもので、高校3年間と専門学校作業療法学科3年間の合計6年間の一貫型教育プログラム開発と実証を推進している。この事業に取り組むきっかけについて、「医師や看護師については幼いころから知る機会があります。一方で作業療法士は怪我などをしない限り、お子さんたちが知り、触れ合う機会が少ないのです」(儀間理事長)。作業療法士などのリハビリテーションの仕事は夜勤がなく、給料も高いため、離職率が低い。それを知った保護者が子どもである生徒に勧め、助言を聞き、進学した生徒が学び始めてから違和感を覚えて、退学をするケースも少なくない。このようなミスマッチを防ぐためにも今回早い時期から職業に対する理解を深めることを目的としたキャリア教育に取り組むことにしたという。
志が同じ方向を向いていて、熱量も似たところに共感
事業を開始するのにあたり、学院長の玉城氏と事務部長の福田氏が訪れたのは、沖縄県立陽明高校・高等支援学校だった。総合学科で教科「福祉」設置校、リハビリテーション業界を目指している生徒も数多く在籍することから白羽の矢を立て、訪問。そこで同じく業界の人材育成に情熱を注ぐ教員と出会った。
「”ワクワク“するかどうかが、私の行動基準の一つです。私たちが試行錯誤をして取り組めば、子どもたちの可能性が広がりますし、子どもたちから社会へハッピーが広がります。お声がけをいただいたときに、事業に参加しない理由はありませんでした」と語るのは総合学科で福祉科の教諭を務める下地氏。同学院が掲げる理念や、高校生の早い段階から職業に対する理解度を深めてもらうことが生徒の将来にもつながると考えたと下地氏は事業に参加した理由を笑顔で振り返る。
この事業を始めるにあたり、下地氏はすぐさま既存のカリキュラムを含めて見直すことを高校内の担当教員に相談。相談を受けた教員は、下地先生の熱意に共感し、カリキュラムの見直しを実施。その結果、高校1年生の240名全員を対象にリハビリ分野の職業理解を深めるためのカリキュラムを授業に組み込むことができた。実は同学院は連携先のすべての高校に一貫したキャリア教育プログラムを協力してくれる高校に提供する予定だった。しかし総合学科や福祉科、普通科では生徒が目指す方向も違えば、カリキュラムも異なる。そこで高校それぞれのニーズに応じてカスタマイズすることになったと福田事務部長。
「高校の先生や生徒の皆さんから直接、生の声を聞くことができ、有意義でした。専門学校としても現場の声をもとにさらに進化していかなければならないと刺激をいただきました」(福田事務部長)
高校と専門学校、立場は違えども目指す方向は同じ。「お子さんから高齢者までそれぞれの世代が生きがいを持ち、キラキラと輝ける生き方をできるような社会をつくりたいです」(玉城学院長)。
「福祉の魅力や働きがい、キャリアパスを発信することはもちろん大切ですが、身近で輝くカッコイイ大人を見て、その人が福祉の仕事をしていると知り、興味を持ってもらうような逆のアプローチも必要です」(下地氏)。この取り組みを通じて、夢に向かって真っ直ぐ突き進んでいく生徒が増え、日本の未来を明るくする人材の輩出が期待される。今後の展開が楽しみだ。
編 集 /松葉紀子(spiralworks)ライター/松葉紀子 撮 影 /清家広樹
本文はCareerMapLabo Vol.3(2023.4月発行)内の掲載記事です。記載されている内容は掲載当時のものです。
儀間 智Satoru Gima
学校法人 智帆学園
琉球リハビリテーション学院
理事長
身体・精神分野で作業療法士を務め、沖縄の自然・海を生かしたリゾートリハビリを行いたいと同学院を設立し、現在に至る。
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