【概要】
地元食材を使った料理を振る舞う、3日間限定の学生レストランを開催。
期間:2022年9月1~3日まで
【ビジョン】
宮津市の生産者と協働し、食を通じて地域活性および次世代の人材を育成。
<地方創生の仕掛け人たち>
◇橋本学 Manabu Hashimoto
宮津市役所 商工係 主査
989年生。神戸の大学を卒業後、百貨店で勤務。数年後にUターンして現職。商工観光課として地域活性化に尽力している。
◇田中幹人 Mikito Tanaka
学校法人大和学園 副理事長
1986年生。調理・製菓・観光関連の専門学校校長として、新規事業、地域活性化や産学連携を推進するキーパーソン。
学生レストランで“地元食材の魅力”を発掘し、地域活性と未来の担い手を育成
2022年9月1日~3日までの3日間、京都調理師専門学校の学生によるレストランが、京都府・宮津市で開催された。同校は、ホテルや調理、製菓・パティシエなど、さまざまな分野のスペシャリストを養成する学校法人大和学園が抱える専門学校の一つである。
なぜ、京都調理師専門学校の学生たちが、宮津市で学生レストランを開催することになったのか。事の始まりは、2013年2月に締結された連携協定だった。
宮津市は日本三景の一つである観光地「天橋立」がある。人口2万人未満の小さい街でありながら、コロナ禍前には年間300万人もの観光客が訪れていた。宮津市の経済において観光産業が占める割合は7.7%。これは市町村平均の3倍以上であり、宮津市にとって観光は最も重要な産業の一つである。
しかし観光客は日帰り客の割合が宿泊客よりも多く、宮津市での滞在時間が短い。当時、宮津市は観光客誘致のために食が起爆剤になると考えていたものの、専門知識はなかった。そこで外部専門家の意見を求めて京都府に相談したところ、府内で唯一の調理師専門学校を抱える大和学園を紹介された。
「地元で活躍されている“食のプロ”たちに、私たちがアドバイスをするのはおこがましい。食を盛り上げるためには、外部の力が必要でした」(橋本氏)
出会いから約1年後に連携協定を締結。以来、宮津市内の事業者に対して、大和学園の講師陣による食のセミナー開催や、レシピ開発のサポートなど、さまざまな支援が行われてきた。
食のプロを目指す学生を巻き込んだ地域活性プロジェクトが始動
宮津市と大和学園の取り組みの中で、2015年から開始した「天橋立ばんばらこ丼」は、特に大きな反響があった。丹後産の食材を使うことを条件としたどんぶりで、観光客にも人気となった。宮津市はこの取り組みを通じて、食の魅力を発信することの重要性を再認識するようになったという。
その後も両者の取り組みは順調に進んでいたが、2020年1月に転機が訪れる。国内で初めて新型コロナウイルスの感染者が確認されたのだ。瞬く間に感染が拡大し、飲食業や観光業をはじめとする産業を中心に、社会経済は大きな打撃を受けた。宮津市も例外ではなく、観光客が減少した。また、大和学園の学生が京都市内で運営しているレストランも一時休業するなど、教育機関への影響もあった。「仕方ないこととはいえ、学生たちに教育の場を提供したいと思っていた私たちとしては、非常に苦しい時期でした」(田中氏)
2021年4月からワクチンが普及し、社会活動は少しずつ復活したものの、先の見えない日々が続いた。現状を打破するために、宮津市と大和学園で話し合いを重ね、考えついたのが「未来の担い手が創る地産地消の学生レストランin 宮津」だ。
宮津市と大和学園のプロジェクトに、学生が参加するのは史上初である。成功させるには地元の生産者・事業者の協力が必要不可欠。受け入れてもらえるかどうか、最初は不安もあったという。しかし橋本氏が橋渡し役となり、地元生産者と大和学園をつなぎ、関係者の協力を得られたことで、無事にスタートする運びとなった。
学園側では、立候補で集まった20名の学生とともに、2022年5月よりレストラン開催に向けて始動。宮津市に縁のない学生たちがほとんどを占める中、数回のワークショップを経て、同市に関する知見を深めていった。6月には宮津市を訪れ、地元の生産者や事業者と意見交換会も実施。数カ月かけて、メニューの開発を進めた。
学生レストランをきっかけに、食を通じて人口減少・高齢化の抑制にも期待
ついに迎えた本番当日。天橋立を一望できる会場には、協力した生産者や地元の人など、多様なゲストが集まっていた。
コースのテーマは「宮津を和と洋で味わう特別メニュー」。前菜3種など、地元食材を存分に取り入れた全7品が提供された。
会場のあちらこちらで「おいしい」と声が上がると、最初は緊張していた学生たちにもゲストの喜ぶ顔を見て笑顔が見えるようになった。
結果として、3日間限定で行われたレストランは連日満員で、大盛況のうちに幕を閉じた。
宮津市と大和学園は、今後もさまざまな取り組みを進める予定だという。一つは市内で普及していない地元食材を使った市民向けレシピの開発だ。例えば、宮津ではジビエがとれるものの、地元で食べられることは滅多にない。市内でジビエを食す習慣がないため、ほとんどが京都市等の都市部に届けられている。地産地消を促進するためには、地元食材を使った料理のアイデアが必要だ。宮津市はレシピ開発だけでなく、大和学園が得意とする「料理教室の開催」も依頼している。地元食材を使った料理を市民に提案することで、食の素晴らしさを市内に広げたいといった思いがある。
また、宮津市としては、人口流出や後継者不足といった問題の解決につなげたいという思いもある。
「宮津市の魅力を知ってもらうことで、将来的に市内での開業を考える学生が増えてくれるとうれしいですね」(橋本氏)
人口減少・高齢化が進む地方では、地域活性と人材育成の両立が重要だ。今後も宮津市と大和学園の挑戦に注目したい。
実際にイベントに参加して
原田玄衞 Kuroe Harada
フランス・西洋料理上級科 2年
京都・太秦キャンパスにあるレストラン以外の場所で、自分たちが考えたメニューを提供できるのは貴重な経験だと思い、参加を決意しました。これからも生産者の方々に寄り添いながら、自分なりの技術を生かした料理で、地方活性に貢献できればうれしいです。
山形さや Saya Yamagata
フランス・西洋料理上級科 2年
宮津にはあまりなじみがなかったのですが、地元の生産者や事業者の方と交流してお話を聞くことで、多くの魅力があることを知りました。私たちの料理やサービスを通して、より多くの方々に、“宮津の素晴らしさ”を広めることができれば幸いです。
本文はCareerMapLabo Vol.1(2022.10月発行)内の掲載記事です。記載されている内容は掲載当時のものです。
田中 幹人Mikito Tanaka
学校法人大和学園 副理事長
1986年生。調理・製菓・観光関連の専門学校校長として、新規事業、地域活性化や産学連携を推進するキーパーソン。
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